【短編】君を探して、哀を奏でる
**☆☆**


「おかしいよね、季音」


白い病室に横たわる彼女を見下ろし、藍は問いかける。

場にそぐわぬ笑顔で。


「そんなに僕から離れたかった?そんなに、僕を嫌いになったのかな」


そぐわない表情の上に涙を流し続ける、矛盾した顔で。


「植物になってまで、いや、植物にもなり得ない、生死の狭間にいきたいほど、僕から離れたかった?」


勿論のこと、季音は答えない。


「僕から離れるなんて、老衰以外許さないよ」


ねえ、と藍の言葉が宙ぶらりんになって落ちる。


「起きてよ。起きて、話そう。季音、季音、季音、季音。もう一度だけで良いから、名前を呼んでよ。君が離れたいと言うのなら、離れるから。季音からそう言われたのならそうする。自分の足を折ってでも、君には近づかないから。え?大変だし、辛いと思うけど。季音が望んだことなら叶えるのが僕の役目だよ。だからさ、だからっ……何も言わないで、どこかへ行かないでよ」


懇願する声は届かない。


規則的なリズムを崩し、ピー、と響く電子音にも動じない。


藍の目には何も映らない。

どこか分からない空を見つめ──ただ、笑う。


「駄目だよ、季音」


そう呟いた瞬間。


「暁さん!?暁さん!」


白衣の看護師が入ってきた。


季音と、響く音に目を見開く。


先生っ、と叫びながら、“再び”季音は一人になった。






< 8 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop