【短編】君を探して、哀を奏でる
**☆☆**


「ああ、あ…」


藍は、目の前にいる女をじっと観察した。

これならいけるか、と確信する。


咽び泣く女の足元には、息も絶え絶えな真っ赤な男。


グサリ、と左胸に銀色の刃物を突き刺す。


「不愉快だなあ。マガイモノとはいえ」


唄うように、楽しそうに。

リズムを刻む藍の手。


「ねえ、君の名前は何ていうの?」


気が済んだか、女に目を向ける。


「…っ、」
 

「耳が腐るくらい腹立たしいけど興味があるんだ。早くして」


無情にも急き立てられ、女は必死の思いで口を開いた。


「千、歳」


「へえ。…やっぱり、僕は彼女しか愛せないんだ。同じはずでも、彼女の方がよっぽど美しく思える」


満足げに呟く男。

千歳は震えながら尋ねる。


知っている。知っているのだ、その男の顔を。


だって、彼は今、目の前で──。



「貴方、だれ─」


その続きを言うことは出来なかった。


刃の切っ先が、ギラリと光る。


「じゃあね」


藍の嬉しそうな声が、真っ赤なその空間にこだました。



「『貴方の為なら死ねる』、なんてさ。絶対的に嘘だよね。無理だよ僕は。どんな手を使ってでも、ね」









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