モテ系同期と偽装恋愛!?
ここは昼時の社食の前。周囲にはたくさんの人が行き交い、興味本位の視線が投げかけられる。
注目されることに慣れてはいても、それを嬉しく思ったことは一度もない。
いつも逃げ出したい気持ちになるだけだ。
「場所を変えよう」と桃ちゃんが言ってくれて、廊下の角を二度曲がり、一階の奥の突き当たりまで移動した。
後はどうぞというように、桃ちゃんは半歩下がり、私だけが彼と対峙する。
「この私を誘うなんて、いい度胸ね。答えはノーよ。私にとってメリットゼロだもの。それくらい説明しなくても分かってほしいけど」
パンプスを床に打ちつけ、わざと大きな音を立てると、彼は一瞬、目を見開き怯んだ様子を見せた。
今まで色んな男性達から誘われるたびに、似たような台詞を言ってきた。
両手を腰に当て、顎先を少し上向きに、どうすれば男性の気持ちを折ることができるのかを知っている。
高飛車な演技は今や、ぎこちなさなど微塵もない完璧な仕上がりだと思うけど、心だけはついていかなくて……。
こんなのは私じゃないし、相手を傷つけることに申し訳なさも感じる。
それでも身を守るためには、高飛車女を貫かないと。
お願いだからこれで諦めて……そう願ってとびきりのキツイ言葉と態度を取ったつもりなのに、彼はすぐに、にこやかな笑みを取り戻して、またしても食い下がってきた。
「飲みに行くくらい、いいじゃないですか。別に付き合ってと言ってるわけじゃないですよ。あ、付き合ってほしい気持ちはあります。紗姫さんを彼女にできたら自慢になるな~」
「バカ言わないで。あなたが私を満足させられるわけがないでしょう」
「そんなの付き合ってみないと分からないじゃないですか。僕、一生懸命に頑張りますから!」
両手を握りしめ、小ぶりな目をカッと見開き、やる気を見せてくる彼。
この人はきっと、なにを言われてもめげないタイプなのだろう。
厳しい面接官の嫌味な質問にも、こうして、やる気をアピールすることで就職活動を乗り切ったのではないかと想像させられた。
ここまでしつこい男性は久しぶりで、鋭い視線を向けつつも、内心では焦っていた。
私と彼の距離は一メートルといったところ。
これくらいの距離があれば心は平常の範囲を超えずにいられるが、あと半歩近づかれると泣きたくなることだろう。