モテ系同期と偽装恋愛!?
桃ちゃんはヘアクリップでひとつに束ねた私の長い髪を撫で、背中も撫でて慰めてくれる。
「よく頑張った。本当は弱くて泣き虫の、紗姫なのにね」
入社六年目ともなれば、社内の男性達からのアプローチはかなり減ったように思う。高飛車女だという噂が、新人以外には知れ渡っているので。
入社一年目のときは毎日が本当に大変で、唯一、素の私を知っている桃ちゃんに、何度慰めてもらったか分からないほどだった。
どうして彼女だけが私の本性を知っているのかというと、バレたからだ。
入社したてで、まだオリエンテーションを受けていたときの話。
指導役の先輩男性社員からのアプローチがしつこくて、私は必死に高飛車戦法でかわしていた。
しかし、社会人になっても学生時代と同じなのかと悲しくて苦しくて、給湯室に逃げ込み泣いてしまったときがあった。
それを桃ちゃんに見つかって……。
あのときはマズイと焦ったけれど、こうして私を理解して側にいてくれるから、バレてよかったと今は思っている。
桃ちゃんがいるから、会社に来るのは嫌じゃない。
ランチや他愛ないお喋りなど、楽しいと感じる時間もたくさんあるから。
私の涙が収まるのを待って、備品保管庫から出て二階のライフサイエンス事業部に戻った。
思いっきり泣かせてもらったお陰で、溜まっていたストレスも抜けた気がして、なんだかスッキリしている。
午後の仕事は頑張れそうだと前向きな気持ちで自分のデスクに向かい、椅子を引くと、座面の上に茶色の紙袋が置いてあることに気づいた。
なんだろう、これ……。
私が置いた物ではなく、首を傾げる。
持ち手のない小さめの紙袋を手に取り、椅子に座って折り返してある口を開いてみた。
すると、中から甘い匂いが。
取り出してみた物はビニールに包まれたパンで、チョココロネとダブルチョコレートマフィンだった。
会社の斜め向かいにあるパン屋のものなのは見て分かる。
あのパン屋に立ち寄った際には、このふたつを必ず買っているから。
私の大好物を、誰かが差し入れてくれたということだろうか?
キョロキョロと周囲を見回しても、視線の合う人はいない。
一体、誰だろうと考えて、社食の窓から見た横山くんの姿を思い出した。
雨の中、出社してきたばかりでパン屋に走る彼を不思議に思って見ていたが、もしや私に差し入れてくれるためだったのでは……。