モテ系同期と偽装恋愛!?
そんな推測に驚いたが、すぐにそれを否定するエピソードも思い出す。
インド出張のお土産の唐辛子チョコを私にだけくれなかった。
意地悪で嫌味な言葉も言われたし、私のことを嫌いな彼がそんなことをするはずない。
今まで私を誘ったことのある同じ部署の男性のうちの誰かだろうと思い直し、パンは嬉しいけれど、これを切っ掛けにまたアプローチされるのは困ると思っていた。
手にしたパンを今は食べずに、紙袋に戻そうとする。
すると、中にまだなにかが入っていることに気づいた。
半紙のような白い紙に包まれた、薄くて丸い物。
それを取り出してカサカサと紙を開くと、中味は布張りのコンパクトミラーだった。
花と蔓草模様のエスニックな柄は、いかにもインドのお土産といった雰囲気。
真ん中に象のシルエットがあしらわれていて、色が淡いピンクで可愛らしさも感じる。
そっと開けて鏡の部分を見ると、付箋がくっついていて……。
『仕方ないから、特別にあげる』
贈り主の名前は書かれていなくても、右上りの力強い筆跡は横山くんのものだと知っている。
なによりインド出張に出かけていたのは彼ひとりだから、もう間違いない。
でも、どうして私に?
一瞬、あげるべき相手の席と間違えたのかと思ったが、新人でもあるまいし、席替えもしていないのでそれはないだろう。
横山くんは私のためにコンパクトミラーを買ってきて、大好物のチョコパンまで付けてくれた。
一体、なにを企んでいるのか……。
彼の席はここから斜めに六メートルほど離れており、間には通路ひとつと机が五つほどある。
目の前の並べたファイルと、向かいの席のデスクトップのパソコンの隙間から斜め前を覗き見ると、仕事をしている彼の姿が少しだけ見えた。
受話器を耳に当てて通話しながら、右手はキーボード上をせわしなく動いている様子。
彼のデスクはこっち向きだが、顔は物陰に隠れて見えない。
それで思わず椅子から腰を浮かせたら、受話器を置いた彼が同時に立ち上がり、六メートルの距離を開けて視線がぶつかってしまった。
心の中で『あっ』と声を上げ、目が合ったことに驚く私。
横山くんも同じように、意表を突かれた顔をしている。