モテ系同期と偽装恋愛!?

確かに横山くんが彼氏役をしてくれたら、他の男性たちは私にアプローチしてこない気がする。

彼は人気も実力も兼ね備えた、うちの社のホープ。勝ち目はないと思うだろうし、敵対したくもないはずだから。

緊張と恥ずかしさに顔を赤くしながら、皆んなの輪の後ろで足を止めた。

すると輪の中心にいる横山くんが、私に向けて右手を差し出す。
手を取って、というように……。

戸惑ってしまうのは、怖いからではない。

男性と握手をすることくらいは平常心でできるし、横山くんの手は温かくて優しいから、特に平気。

それでもすぐに彼の手を取ることができない理由は、その後の皆んなの反応を想像して、既に恥ずかしさがピークに達してしまったせいだ。

「お、おい、遼介」と彼を止めようとするのは、さっき廊下で挨拶した谷さん。

私の変化に気づいていた谷さんでも、まさか横山くんの手を私が取るとは思うまい。

谷さんの言葉を笑顔ひとつでスルーした横山くんは、「紗姫」と優しい声で私に行動を促した。

戸惑う私は胸もとで、右手を左手で握りしめていた。

その手を外して、そっと腕を伸ばし、差し出された横山くんの手に自分の右手を乗せた。

重ねた手はギュッと握りしめられ、その上に皆んなの視線が降ってくる。

恥ずかしくて逃げたい……そう感じた次の瞬間、繋いだ手に力が込められ、アッと思ったら、輪の中心の彼の目の前まで一気に引き寄せられていた。

取り巻きの人たちが、天変地異でも起きたような顔をして「え?」「どういうこと?」と、口々に驚きを込めた疑問の言葉を口にする。

真っ赤な顔でうつむく私。
その正面では、手を離さないまま、横山くんがよく通る声でハッキリと言った。

「紗姫は俺の彼女だから。よろしく」

< 171 / 265 >

この作品をシェア

pagetop