モテ系同期と偽装恋愛!?
抱きたくても
◇◇◇
9月中旬、夏が終わりそろそろ涼しくなってきた頃。
大会議室の花瓶の花は、秋色に変わっていた。
15時過ぎに部署を抜け出し、こっそりここに来た目的は、桃ちゃんとの楽しい休憩タイムのため。
それなのに今、私は厳しい指導を受けていた。
そう、男性に慣れるための、遼介くんの指導を……。
壁に背を当てて立つ私の顔の横には、二本のグレーのスーツの腕。
その腕は壁に突き立てられていて、いわゆる壁ドンと呼ばれる状況で、私は彼と見つめ合っているのだ。
「そろそろ苦しくなってきた……」
そんな弱音を口にしたが、「まだいけるよ。あと30秒頑張って」と励まされただけで、解放してくれない。
耳もとで鳴っているかのような、速くて大きな自分の心音が煩い。
背中には冷汗が流れ、甘口の双眼に色気を感じるたびに、手が小刻みに震えてしまう。
まだまだ男性に恐怖を感じてしまう私だが、これでも随分とマシになったと思っている。
遼介くんが偽の彼氏役を引き受けてくれたのは7月上旬のこと。
それから2ヶ月と少し、彼は優しい言葉で結構厳しく私を特訓してくれた。
ある日の休日は、腰に腕を回して体を密着させた状態での植物園デート。
汗びっしょりになってしまったのは、暑い日差しのせいではなく、冷汗が流れるせいだった。