モテ系同期と偽装恋愛!?

腕時計の針は19時を指していた。

1時間の残業後に退社すると、月もない黒い空から冷たい雨がサアサアと降っていた。

濡れたアスファルトの道が車や街灯の明かりを反射させ、その中を折りたたみ傘を広げて、足早に駅に向かって歩いていた。

今日はひとりぼっちの誕生日。

このまま自宅に帰るのが寂しくて、電車で二駅先の映画館にでも寄ろうかと考えていた。特に観たい映画はないけれど……。

駅前の大通りは街路樹がイルミネーションで彩られ、雨の中でも賑わっていた。

金曜だからこれから飲みに行く人も多いのだろう。遊びに行く人と帰宅する人で、気をつけないと傘がぶつかるほどの混みようだ。

人の流れに乗って歩き、駅の構内まで後もう少し。

間口の広いこの駅の屋根の下までくると、皆一様に傘を閉じて、改札の方へと吸い込まれていく。

私のすぐ前を歩いているのは、ひとつの紺色の傘を差した男女だった。

私より先に傘を閉じたふたりの後ろ姿を目にして、ハッとする。

遼介くんと平田さんだ……。

焦って近くの丸い柱の陰に身を隠してしまった。

それからやっと傘を閉じ、早鐘を打ち鳴らす胸を押さえる。

午前中に平田さんが彼のデスクに寄って、何かをヒソヒソと耳もとで囁いていたことを思い出した。

あれは、退社後のデートの相談でもしていたのだろうか……?

< 243 / 265 >

この作品をシェア

pagetop