モテ系同期と偽装恋愛!?
ハッとして振り向いたが、土手の向こうに雨に霞むビル群と、道路を走り抜ける車のヘッドライトが見えるだけで誰もいない。
彼を恋しく思う余りの幻聴かと呆れて、悲しみの涙の量が増してしまった。
しかし、すぐにまた聞こえてきた。
「紗姫っ!」
今度は近くにハッキリと。
黒いハーフコートのシルエットが階段を駆け下りてくるのも見えて、私は目を見開いた。
追ってきたの……?
どうして……平田さんの告白をOKしたはずでは……。
苦しみの中では、追ってきた理由を、いい方に解釈できなかった。
新しい彼女ができたことを報告するためだろうかと考えてしまい、聞きたくないと心が悲鳴を上げていた。
思わず逃げ出してしまったが、ほんの少し走ったところで追いつかれ、後ろから腕を引っ張られてしまう。
バランスを崩し、地面に向けて傾く体。
衝撃を覚悟して固く目を瞑ったが、転んだのになぜか痛くない。
目を開けると彼の腕の中にいて、仰向けに倒れた彼の体の上に乗っていることに気づいた。
慌ててレンガに手を付いて、上半身を持ち上げる。
「遼介くん、大丈夫⁉︎ 怪我してない⁉︎」
「平気。捕獲に失敗して……いや、捕まえたから成功か」
彼の両手は逃すまいと、私の腕と腰を捕まえている。
これ以上は逃げられないことに気づいて、焦りの中で私は目を泳がせた。