モテ系同期と偽装恋愛!?
それなら、どうするというの……?
まさか、別れてほしいというのでは……そんな予感に泣きそうになる。
すると、手首を握られた。
唇を引き結び、なにかを決意したような顔で、私を引っ張るようにしてミーティング室を出て駆け出した。
周囲の視線が一斉に私たちに向けられて、「遼介?」と問いかける桃ちゃんの声も顧みず、彼は通路を走るだけ。
なにがなんだか分からない私も、引っ張られるままに一緒に走っていた。
うちの部署から出て、廊下を駆ける。
前方に、隣の部署から出てくる人事部長の姿が見えた。
遼介くんに内示を伝えた後、隣の部署の誰かにも移動の説明をしていたみたい。
階段の手前で人事部長に追いつき、呼び止めて、彼はやっと足を止めた。
どうやら突然走り出した目的は、人事部長に話すべきことを思い付いたからのようだった。
隣で私は戸惑うばかり。
一体、なにを話す気か……。
遠距離恋愛が無理だと言われて、さっきは別れを切り出されるかと焦ったが、なにか違うみたい。
まさか、この昇進と移動を断る気では……今はそんな不安と心配が湧いていた。
人事部長は厳つい顔と体型の50代の男性。
なんとなく怖いイメージを持ってしまうのは、社員の運命を左右する人事の権限を有している人だからだろう。
気後れしている私に対し、遼介くんは人事部長と目を合わせ「お願いがあります」とハッキリ言った。