モテ系同期と偽装恋愛!?
みんなに囲まれて明るく笑う横山くん。
キリッと男らしい眉の下には、やや垂れ目の甘口な二重の瞳。
唇には大人の色気が漂っていると女子達が噂しているが、笑うと急に少年のような可愛らしい印象にもなる。
そんな彼の横顔を離れた場所から眺めて考え込んでいると、桃ちゃんに言われた。
「紗姫だって、男の敵じゃない。うちの部署のお・ひ・め・さ・ま」
「意地悪言わないでよ。桃ちゃんだけは、分かってくれてるのに……」
頬を膨らませて文句を言ってから、止めていた足を前に進めた。
横山くんは苦手。できることなら話したくないが、お客さんからの伝言を預かっているので、仕方なく近づいていく。
桃ちゃんの前では少々気を抜いていた顔を引き締め、三センチヒールのパンプスをわざとカツカツ鳴らして、人だかりの後ろに立った。
「すみませんが、通してもらえる?」
私のひと声で「紗姫さん!」と男性社員が一斉に振り向き、道を開ける。
女子社員も憧れのこもる視線を私に向けて、横山くんの側から一歩下がって場所を作ってくれた。
本当は気弱な私。でも強い女を演じることは、もう十年近くになるので慣れてもいる。
いつものように強気な笑みを浮かべて、メモ用紙を彼に突きつけた。
「横山係長、先ほど葉王本社の上田様から連絡がありました。用件はここに書いてある通りです。折り返す約束をしましたので、後はよろしくお願いします」
今まで愛想よく取り巻き達と会話をしていた横山くんだが、私を前にすると急に意地悪な笑みを浮かべる。
また絡まれる……そんな雰囲気を感じて、すぐにこの場を立ち去りたかったのに、彼はメモ用紙を受け取らずに話しかけてきた。
「お姫様に連絡係をやらせて、申し訳ないな~。それと何度も言うけど、横山係長って呼ばないで。同じ名字だし同期だろ。遼介くんって、可愛く言ってみて?」
どうして同じ名字なのだろうと、つくづく残念に思う。
紛らわしいので周囲の人は私達を下の名前で呼ぶ。社内に限っては。
それは別にいいとしても、私にも彼を下の名前で呼ぶことを求めないでほしい。
メモ用紙を中々受け取ろうとしないので、彼がお尻を半分乗せているデスクの上に置いた。
「同期と言えど、一線引いて接したいので、呼び方を直す気はないわよ。横山係長、用件は確かに伝えました。これで失礼します」