モテ系同期と偽装恋愛!?

桃ちゃんは少し離れた位置から、私の戦いを見守ってくれている。

私を唯一理解してくれる彼女と早くランチに入りたい……。

しかし横山くんにクルリと背を向けて歩き出そうとしたら、肩を掴まれ、ビクリとした。


「待ってよ、紗姫」

「気安く触らないで。呼び捨てもやめて」


肩にかけられた手に力がこもり、無理やり彼の方に向きを変えられた。

その手を払い落とし、十数人の輪の中で視線をぶつけ合う。

彼の目力に負けじと精一杯睨みを利かせる私だが、内心は怯えている。

お願いだから私に絡んでこないでと、心の中だけで叫んでいた。

男性恐怖症と言ってもいいほどに、男の人が苦手だった。

小さな頃から美少女と呼ばれる私は、嫌でも男性の目に止まる容姿をしている。

それは私にとって決していいことではなく、そのせいで灰色の青春時代を過ごさねばならなかった。

中学のときは友達の好きな男子に好かれてしまったことが切っ掛けで女子グループを外されたし、高校のときは同じ学校の男子からも他校生からも告白ラッシュに遭い、本当に大変だった。

元々気弱な性格なので上手に振ることができず、曖昧にかわし続けていたら、十股かけているという噂が。

ほとんどの女子から嫌われるし、真面目な男子から悪女呼ばわりされ、遊び人ふうの男子からは積極的に迫られた。

待ち伏せされ、つきまとわれ、力尽くで交際を求められたり、電車内で痴漢にあうことも何度もあり……。

思い出しただけで胸が苦しくなる学生時代だが、そこから学んだことが今の私を守ってくれてもいる。

その学びとは“高飛車な女を演じていれば敵は生まれない”ということ。

あなた程度の男が、この私に近づいていいと思っているのかという態度を取っておけば、大抵の男の人はアプローチしてこない。

女子からも敵認定されず、むしろ男を見下すかっこいい女性として一目置かれ、友達にはなれなくても嫌われることはなくなった。

そんなふうに高飛車女を演じることで身を守ってきた私。

多くの場合は上手くいくのだが、横山くんだけは他の男性と違っていて……。

肩にかかった手を振り落としたのに、今度は手首を掴まれた。

「おおっ、さすが遼介!」と周りの男性社員は褒めそやしている。

私に一目置いてくれる女子社員達は、少々嫉妬の混ざった視線を投げてきた。
< 5 / 265 >

この作品をシェア

pagetop