モテ系同期と偽装恋愛!?
マズイと内心焦りだし、掴まれている右手が震えそうになる。
男性に関わるとろくなことがない。特にモテる男は要注意。
それが骨身に染みている私の胸には過去の苦しさが蘇り、泣いて逃げ出したい気持ちになっていた。
でも泣くのは絶対にダメ。弱い素顔を見せてしまえば辛い過去に逆戻り。
自分の身を守るためには、強気な態度を取り続けないと……。
怯える心を隠して「なによ、この手は」と、より一層睨んだら、「可愛くない女だよな」と呆れたように彼に言われる。
すると他の男性達が「なに言ってんだよ」「可愛さナンバーワンなのに」「お前の目は腐ってんのか?」と口々に嬉しくない擁護をしてくれた。
「性格の可愛げのなさは世界一。今から出張土産を配るから、待ってなってことだよ」
そう言い終えると彼はやっと、私の手首を解放する。
お土産……私にもくれるのかと意外に思い、尖りすぎた態度を取ったことを少々反省。
横山くんは机の上に置いた紙袋の中からヒンディー語らしき読めない文字の書かれた箱を取り出して開けると、直径四センチほどの丸型チョコレート菓子を配り始めた。
個包装されていないので、もらったらすぐに食べないと都合の悪いお菓子だった。
受け取った人から順に口に入れていくと……「なにコレ、辛っ!」と驚きの声が上がった。
ニヒヒと悪戯っ子のように笑う横山くんが「唐辛子入りチョコだよ」と打ち明ける。
「浅倉もこっちおいでよ」
離れた位置にいた桃ちゃんも呼び寄せられ、唐辛子チョコを手渡されていた。
桃ちゃんは辛いものが苦手。
可愛い顔の眉間に皺を寄せてチョコを見つめていたが、突然、隣に立つ後輩男子のネクタイを掴んで引っ張ると、その口に無理やり押し込んでいた。
「浅倉さん、ひどいっす」と文句を言いつつ、二個目の唐辛子チョコを飲み込んだ彼は涙目で、相当に辛いのだということが伝わってくる。
桃ちゃんと後輩男子のやり取りに、周囲はドッと笑いに包まれ、そんな輪の真ん中にいる私だけは笑いたいのを我慢していた。
私も唐辛子チョコが欲しい。
その気持ちを表に出さないように気をつけて、澄まし顔をキープしつつ配られるのを待っている。
桃ちゃんと違って辛いものは苦手じゃないし、チョコレートは大好きだ。
激辛チョコなんて食べたことがないので、ぜひ体験してみたいという好奇心に駆られていた。