モテ系同期と偽装恋愛!?

横山くんが手に持つ箱の中に、あと二十個ほどのチョコレートが残っている。

私以外のみんなは既に受け取っているので、次は私の番。

内心ワクワクしながら待っていたのだが、残りのチョコを数えた横山くんに言われた。


「部長と課長と不在の人に配ったら、ちょうど品切れだ。紗姫の分、ないや」


口の端をニヤリと吊り上げ、私からの反応を待つように、ジッと見つめてくる彼。

そんな……楽しみにしていた分、少なからずショックを受けた。

本来なら非難の言葉のひとつでもピシャリと言い放つべきなのに、返す言葉も見つけられずに、意地悪な笑みを浮かべる彼から視線を逸らした。


「お、おい遼介、紗姫さん相手になにしてんだよ……」


落ち込む私に代わって男性社員のひとりが文句を言ってくれて、女子達は「紗姫ちゃんにだけいつも冷たくない?」「気のせい?」とヒソヒソ囁き合っている。

気のせいじゃない。横山くんはいつも私にだけ意地悪。

そんな彼の言動を悲しむというよりは、困っていた。

今みたいに高飛車な演技を崩されそうになって、焦るから……。

改めて横山くんが苦手だという感想を持つ。

私に近寄ろうとする男性達は高飛車戦法でかわせると思っていた。

それなのに横山くんには、交際を求められるという意味ではなく、別の意味で通じないのだ。

余計に絡まれて、そうすると彼を狙っている女子社員達に嫉妬の目を向けられ、かつてのような虐めに遭うかもしれないと恐れる私がいる。

こうして意地悪く絡んでこられると、どう対応していいのか分からなくなり、強気な態度を崩され素顔を見られそうになる。

だから私は男性の中でも特に彼が苦手なのだ。

横山くんは唐辛子チョコの箱に蓋をしてから、うつむいた私の顔を覗き込むようにして聞いた。


「紗姫、欲しいなら欲しいと言いなよ」

「いらないわよ、そんなもの」

「だよな~。お姫様に庶民の駄菓子は似合わないよな。有名パティシエ作の高級スイーツを食わせてくれる金持ちの彼氏が、ウジャウジャいるだろうし」


違うのに……反論は心の中だけで、口に出すわけにいかない。

本当は恋をしたこともない私。

でも、いい男達との恋愛経験が、さも豊富なように思わせているのも私。

あなたごときが私に近づいていいと思っているのかと、口に出さずとも態度で示すようにしている。

そうしないと自分の身を守れない。男性には近づいてほしくないから……。
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