モテ系同期と偽装恋愛!?
嫌味たっぷりのひどい言葉を言われたことは、自分のしてきたことのツケである。
そう自覚していても、横山くんの言葉にしっかり傷つく弱い私がいた。
これ以上この場にいたらダメだ。
ボロが出てしまいそうな気がして、ひと睨みしてから彼に背を向け歩き出した。
「紗姫さん、いつも遼介がごめんね」と、なぜか彼以外の男性社員に謝られる。
その言葉に応えることができずに、私はカツカツとヒールを鳴らして、ライフサイエンス事業部のドアから出て行った。
すぐに桃ちゃんが追いついてきて、彼女にも謝られた。
「そういえば紗姫はチョコ大好きだったよね。ごめん、私がもらった奴、あげればよかった」
「ううん、チョコはもういいよ。今度、唐辛子入りのチョコを自分で作って食べてみるから」
そういうと桃ちゃんは笑ってくれて、それから渋い顔して横山くんのことを言う。
「許してやって。遼介は意外と不器用なんだ」
桃ちゃんと横山くんは同期として仲がいい。
桃ちゃんには長く付き合っている彼氏がいるし、お互いに恋愛感情は湧かないらしいけれど、会話をしている姿は時々見かける。
誘われても私は行かない同期の飲み会や部署内若手社員の飲み会にも、ふたりは積極的に参加して語り合う仲のようだ。
私よりは遥かに彼に詳しい桃ちゃんが言うなら、一見なんでも器用にこなす横山くんにも不器用な面があるのかもと思う。
でも、その後に続く「紗姫のことを嫌いなわけでもないし」という発言には、否定したい気持ちになっていた。
だったらどうして、私にだけ意地悪なのか……。
横山くんの印象を他の人に問えばきっと、かっこいい、優しい、頼りになる、楽しい、期待のエースと、いい言葉しか返ってこないだろう。
モテすぎるが故に、遊び人と一部で言われる人でもあるけれど。
総合して高評価な好青年である彼が、私だけに意地悪く絡んでくる理由は、高飛車な女が嫌いだからという理由しか思いつかない。
桃ちゃんの言葉は全て正しいと思いたいが、これに関してだけは首を傾げた。
しかし桃ちゃんは横山くんについて、それ以上の情報を与えてくれない。
「今日の定食なんだろう?」と会話を逸らすから、私も彼について考えるのをやめて、話を合わせて階段を降りていった。