それは秘密です
「あ、加東さん」


やりかけの仕事を中断し、当該コーナーまで移動してパーテーションの陰から中を覗くと、予想通り、奥まった位置に彼が腰かけていた。

ちょっと遅めの休憩に入ったらしく、片手に紙コップのコーヒーを持っている。

「すみません。お待たせしました」
「いや、こっちこそ。俺の都合で呼びつけちゃってゴメン」


彼は組んでいた足を下ろし、姿勢を正しながら私に視線を合わせ、返答した。


「今から休憩なんだよ。だからこれ、飲みながら話しても良いかな?」
「あ。だったら私、出直して来ましょうか?」


せっかくのくつろぎタイムを邪魔しては悪いと思い、そう提案した。


「いやいや。わざわざ来てもらったのにそれは悪いよ。っていうか、このタイミングじゃないと俺の方がもう話す時間がないから」


加東さんは苦笑いを浮かべつつ返答する。


「この後やること目白押しなんだ。しばらく残業続きだろうから定時後もなかなか時間が取れないし。だから悪いけど、今聞いてくれる?」
「そうですか…」


来月のイベントだけじゃなく、社内の販促業務を同時進行でいくつも進めていかなくちゃいけないから、宣伝課は大変だよね。


私はそう納得しながら奥へと進み、加東さんが腰かけているベンチに対して直角に置かれているベンチの方に腰かけた。

何となく隣に密着して座るのは抵抗があったのだ。
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