それは秘密です
それに横並びより、向かい合う格好の方が話もしやすいだろうし。


「君も何か飲む?」


私が腰を落ち着け、改めて視線を合わせた所で加東さんはそう問いかけて来た。


「いえ。私はもうすでに一息ついてますから」


内勤の社員はだいたい15時から半くらいまでの間にその時間を設けるのが慣例になっている。


だから16時過ぎまで休憩がずれ込むという事はめったになかった。


「それであの、お話というのは…?」


加東さんもお忙しいだろうけど、私の方だってそんなにのんびりとはしていられない立場だ。

なのでさっそく本題に入ってもらうことにした。


「うん…」


ポツリとそう呟いたあと、彼はコーヒーを一口飲み下し、その直前までと同じ穏やかな表情、同じトーンの声で言葉を繋いだ。


「率直に言うけど、俺と付き合ってくれないかな?」


「……えっと、どちらまで?」


だから私はてっきり仕事に関する話であると思ったのだ。

なので真意が掴めないままに、条件反射でひとまずそう質問していた。

『私が加東さんに同行してこなさなければならないような業務って、何かあったっけ?』という大いなる疑問を脳内に浮かべつつ。


「いやいや、そういうボケはいらないから」


彼は笑いを滲ませた声音で先を続けた。


「物理的にどこかへ行きましょうっていうんじゃなくて、俺の彼女になってくれないかな?っていう意味」
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