それは秘密です
「最初の頃はとりあえず挨拶だけだったんだけど、徐々に世間話を交わすようになって、今ではプライベートな話もするようになって。最近、その時間を待ち遠しく感じている自分がいてさ…」


………どうしよう。


彼の話を耳で捉えつつ私は心の中で呟いた。

創業120年を誇る、名実共に国内トップの座に君臨していると評される菓子メーカー「天海製菓」に同じ年に入社して同じ部署に配属されて、必然的に他の同期よりも付き合いが濃くなり、こんな風に定期的に飲みに繰り出すくらいの仲になったむとうれいと君が…。

実は密かに『そろそろ気の合う同僚以上の関係に昇格したいな♪』なんて夢見ながらもその気持ちを押し隠して友達ぶりっこで接して来た六島零人君が…。


まさかホモだったとは。


しかもその想い人っていうのが…。

「……悪い。何だか、微妙な空気にしちまったな」


ポカンと口を開けたまま、おそらく果てしなく間抜け面になっていたであろう私を気まずそうな表情で眺めながら、六島君は話を進めた。


「今夜はもうお開きにするか。今週忙しかったし。早く帰ってゆっくり休もう」
「あ、うん…」


忙しかったからこそ、気分をリフレッシュするべく、恒例の二人飲み会を開催した筈なのだが…。

普段の流れならもう一杯くらい何か飲んで、締めにうどんかラーメンを頼む所なのだけれど、今日はとてもじゃないけどそんな気分にはなれなかったのだろう。
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