それは秘密です
酒の勢いを借りて今までひた隠しにして来たのであろう感情をカミングアウトしたものの、私の天変地異を目の当たりにしたかのようなリアクションを見て我に返り、途端に後悔の念が押し寄せて来たのだと思う。

だからその話題をそれ以上広げるような事はせずに、私は彼の意見に素直に同意し、さっさと帰り支度を始めた。

居酒屋を出て最寄りの停留所で彼と別れ、ぼんやりしながらバスに揺られてその後数百メートルの距離を歩き、無事、一人暮らしのアパートへとたどり着く。

そして気付いた時にはきちんとナイトウェアに着替え、ベッドの上に腰かけ、ここまでの出来事を回想していたのだった。


……そうそう、だから、問題は六島君が好きになったというその相手で…。

そこで私は居酒屋で中断した思考の続きに取り掛かる。

と同時に記憶が二日前へと遡った。


『次回のイベントの際に臨時で雇うスタッフについて、メールではなく口頭で確認しておきたいことがあります。お時間いただけますか?』


出勤し、朝イチでメールをチェックしていると、このような文面のものが届いていた。

差出人は件の人物、宣伝課の加東充也さん。

来月都内のコンベンションホールを貸し切って、我が天海製菓の新商品発売のキャンペーンを行う予定なのだけれど、物品の搬入や撤去、また、来場者の受付や案内を行う人員を数十人ほど雇い入れる事になった。
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