それは秘密です
零人
『お話があります。勤務終わりに会っていただけませんか?』


午後の休憩時、以前入手していたそのアドレス宛にメールを送信すると、『19時前後なら』というレスポンスが届いた。

了承した旨と待ち合わせ場所を記載した文面を送り、ひとまず仕事に戻る。


「……嘘だろ」


約束した時間に無事に落ち合い、挨拶もそこそこに繰り出した俺の告白を聞いた瞬間、彼は最大限に目を見開いた。


「嘘じゃないですよ…」


あずまやの椅子に腰掛け、神妙な表情で傍らに佇む彼を見上げていた俺だったが……。


こらえきれず、思わず『ふっ』と笑いを漏らしたあと、続ける。


「今日の朝、佐藤に好きだって、しっかりはっきり告白されました。だから言ったじゃないですか。あんたが入り込む余地なんかこれっぽっちもなかったんですよ」


これが笑わずにいられるか。

突如現れた強力なライバルを見事に撃退し、完全勝利を果たしたのだから。


「やり手で切れ者だって評判なのに、加東さんて意外と肝心な所でツイてないんですね。よりにもよって恋敵である俺に仲介を頼んじゃうんだから」
「いや、だってお前ら、すっげー仲が良かったから…」


珍しく歯切れの悪い口調で、それでも加東はきちんと返答した。
< 47 / 52 >

この作品をシェア

pagetop