教室と、初恋。


それでも健人はどこか嬉しそうに、来てくれてありがとうと笑う。


笑う時に小首を傾げる癖は変わってないらしく、その可愛らしさに少し安心した。



「あ……そう、これ差し入れ。岡野家特製はちみつレモン」



わたしは思い出したように、鞄に入れていた保冷バッグ取り出した。


本当は自然に渡せるタイミングをずっと見計らっていたんだけど……大丈夫だったかな。



「ありがとう! 俺彩奈ん家のこれ、すごい好き」


「あは……お母さん喜ぶよ、伝えとくね」



と、少し笑って気がついた。


わたしたちを阻むフェンスの存在に。


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