~赤い月が陰る頃~吸血鬼×妖狐執事
────どうか、傷つけないで……。
「……っ!」
私は、あわてて零から身を離す。
一瞬、何がなんだかわからなかった。
零の真っ白だったシャツの襟は鮮血で滲んでいる。
(私はなにをやっているんだ)
(母上との約束を無下にして、零を傷つけた)
少し荒い息を吐きながら身を起こした零に私は恐る恐る近づく。
そして首筋の牙あとにそっと触れた。
「……っ」
零は小さく息を呑む。
「……痛むか」
「……いえ、どうかお気になさらないで下さい」
零はそういうと、流れる落ちる血もそのままに
ネクタイを首にかけようとする。
「ち、ちょっと待った」
「はい?」
「はい?、じゃない。血、血が出たままだ。
これ、使えばいい」
そう言って私はポケットからハンカチを差し出す。
「有り難うございます」
「…………いいか?そもそも、お前というヤツは……吸血鬼に血を差し出そうとするなんて、言語道断だ。しかもこんな私になんて……、全く理解出来ない。まず、何故私の部屋に無断で入ろうとしたんだ。万が一にでも、危険だとは思わんか……、それと……」
まくし立てるように話し出す私に、零は思わず目を丸くした。
「……凜様、その、もう少しゆっくり……」
「……悪かった」
私は顔を見られないように、
俯いたままでそう言った。
「…………」
零はさらに目を丸くする。
(凜様が……私に……?)
「……ふふっ」
零は堪らず笑う。
「!?」
「お前今笑って……」
私は、零が初めて笑ったことと、自分が馬鹿にされたことの両方で驚いた。
「やっぱり、凜様は素直で可愛いお方だ」
「なっ」
「ほら、今も真っ赤になられていますよ?」
「……お、お前!」
不覚にも動揺してしまい、声が裏返る。
「……でも、
もっと自分に素直になっても良いのですよ」
「……」
「今度は早めにお呼びつけください、凜様」
「……そ、そんな必要は……」
「それと……こんな私なんかに、ではなく、
そんなあなただからですよ。加えて言うと凜様を危
険だと思ったこともございません」
そう言って、いつの間にか身支度を整えた零は、
落ち着いたら先にお風呂を、と言い残して私の部屋を出ていった。
私は、乱れた服装をさっと正し、お風呂場へと向かった。