~赤い月が陰る頃~吸血鬼×妖狐執事
─────────暗い
何も見えない。
……ぴちょん
……ぴちょん
耳を澄ますと、微かに水の音が聞こえる。
私は、音のする方へと歩みを進める。
………………どれだけ歩いただろうか。
前に進んでいるのかすら分からなくなり、
その場に座りこもうとした時、
急に、前方に圧迫感を感じた。
そーっと手を伸ばしてみると、冷たく、体温を奪っていく。どうやら壁のようで、それ以上は前に進めない。
更に、左右から圧迫感を感じてまた手を伸ばす。
相変わらず何も見えない暗闇の中で、
いつの間にか四方を壁で囲まれたようだ。
暗闇。
閉所。
静寂。
言いようのない恐怖に襲われ、全身の身の毛がよだつ。
次の瞬間には、私は叫んでいた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
知っている。この感覚……
これは……私の…………
────────記憶
「「違ゥ」」
「っ…………!!」
その声が頭に響くように聴こえた時、私を囲んでいた壁が幻のように消え去る。
ふと、背後から人の気配を感じ、振り向く。
暗転していた世界に薄い暗い明かりが灯る。
「……誰だ」
暗闇に目が慣れていたせいなのか、
そうではないのか、子供の落書きのような、
全身真っ黒な、顔だけがグニャグニャと定まらずに動く、複数の、まるで人のような影がこちらを凝視しているのが目に映る。
「……うっ……!」
目を合わせた瞬間、頭に鋭い痛みが走る。
貫くようなその痛みに、脱力感を覚え、その場で膝をつく。
うつむく私に、すっと影がさす。
なおも痛み続ける頭を押さえ、影の主を視界に入れようと、ゆっくりと顔を上げた。
「「コレハ、お前の、ォマェノ罪ダ」」
先程の人のようなモノ達が私を囲むようにして、
醜い顔で見下ろし、そう告げる。
「「罪ハ、消ェなイ」」
「「「痛ミハ、エいェン二」」」
「…………っ!!」
恐怖で頭が真っ白になる。
……ぴちょん
……ぴちょん
この音は、さっきの……!
(どこだ?一体どこから……あれを辿れば……)
ふと、頭に何かがぽたりとこぼれ落ちてきた。
反射的に、頭に触れる。
私の髪になにか────
────────ぬめっ
……ぴちょん
……ぴちょん
赤黒くて、粘り気のある、液体……
理解するのがはやいか、
私は、声にならない声を上げた。
「……あぁっ……」
「……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
意識が再び途切れる瞬間、
何かが私の首筋を貫いた。