サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
「では、今度は花嫁さんお一人で」
井上さんが少し離れたところから、私を見てくれている。
立ち位置を直されて、微笑むようにと言われる。
本当の花嫁さんのように。
明るく笑って。
がんばって作り上げた笑顔を向どこに向けたらいいのか、忘れてしまった。
急に筋肉が強張ってしまって、どんな顔をしたらいいのか分からなくなる。
「何やってるんだろう。私」
こんなにきれいに着飾ったって、どんな意味があるのだろう。
写真を撮るためにカメラを向け、私に近づいてきたスタッフの姿が竜也と重なった。
竜也が、幸せそうにカメラを向けた先にいたのは、私ではない。
彼女は、可愛らしいドレスを、私より完璧に着こなしていた。
着ているものだけ豪華にしたって、私は、彼女にはなれない。
気が付いたら、足が震えだし、自分の足で立てなくなっていた。
「お客様?大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」
どうしていいのか分からない。
こんな、きれいなウェディングドレスを着せてもらったって、私の横に竜也が立ってくれるわけじゃない。
どうにか誤魔化そうとしてきた。
自分の気持ちに蓋をしてきた。
最初に彼に『他の人と結婚するから』と言われても、心の底では、信じてはいなかったんだ。
いつか、彼は私のもとに戻ってくるはず。
竜也が私を忘れるわけない。
本当に、心の底ではそう思っていたんだ。
私は、そのことから目を背け、見ないようにしてきたんだ。
でも、そんなの夢物語だ。
涙があふれていた。こんな姿をしてるのにどうしよう。
これから、どうしていいのか分からない。
どんなに着飾ったって、私じゃ本物にはなれない。
偽物は、私の方だ。
ここでこうして、花嫁の格好してたって竜也が迎えに来ることはない。
やっとわかった。
竜也は、私を選ばなかったんだ。
それは、どうしようもない事実なんだ。
もうダメ。これまで支えていた柱がなくなって、倒れそう。
足元がぐらついて床に倒れると思ったら、逞しい腕に引き寄せられ、誰かの固い胸に押し付けられた。
どうしたの?井上さん?
声を押し殺して泣いている私に、彼は言った。
「よかった。やっと泣いてくれた」