サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~


彼は、ドレス姿の私の手を引いたまま、歩き出そうとしている。
き、着替えないの?
ど、どうするのよ。この格好で。
サロンから出るっていうの?本気?
そんなことできるわけないって。

「お客様!」
ほら、止められた。


「はい」
井上さんが立ち止まった。
こんなの、いいって言われるわけないでしょ?
狂ってるもの。


「トレーン引きずってますよ。こちらは必要ありませんね」
彼女は、ドレスの裾から拾い上げて、外してくれた。


「お幸せに。波多野の方からは、くれぐれもお客様の意向に沿うようにと申し使っております。お気にせずにがんばってください」と小さく耳打ちしてくれた。


なぜか、スタッフのみんなに拍手でお見送りされた。


「どうして?何で歓迎されるのよ。こんなことあり得ないでしょう?」

「俺を誰だと思ってるの?君の大嫌いな御曹司だぞ。多少のわがままなら聞いてもらえるさ」


なんて人なの。

あまり考えたくないけれど、エレベーターに乗るために、ロビーに出なきゃいけないはず。

まさかこのまま、外に出たりしないよね?


「井上さん、どこへ行くんですか?」


「おお、すごい注目度だよ。みんな見てる」
彼は、嬉しそうに手を振ったりしてる。

ホテルのスタッフが、何度も近づいてきて、何事かと尋ねて来たけど、井上さんは波多野さんの名前を出して切り抜けた。


「井上さん、戻りましょう。着替えサロンにありますし」


「やだね。こんなの、何度も体験できることじゃない。それに、着替えなんてしばらく要らんだろう。そんなもん」


ロビーを過ぎ、ホテルのボーイが飛んできた。


「お客様!」


「あっ、君、ちょうどよかった。上に上がりたいからボタンを押して。45階そう。ありがとう」


「行ってらっしゃいませ」
彼は、機嫌よく手を振った。

エレベータには、ほかの乗客もいた。




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