サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
「ねえ、もういいでしょ?手を離して。いい加減にして」
彼にしっかり抱きかかえられるように捕まっている。
「ダメだ。手を離したら逃げるに決まってる」
「この姿で、どうやって逃げるのよ」
「ねえ?どうしたの?」
すぐ横にいた、5歳くらいの女の子に聞かれた。
井上さんは、小さな女の子に顔を向けて言う。
「たった今、花嫁さん取り返してきたんだ。それでね。俺の花嫁になるように、今から説得するところだよ」
「そうなんだ。がんばってね」
澄んだ目でそういわれると、なんて答えたらいいのか分からない。
「ああ、がんばるさ」
エレベータを下り、フロアに出た。
ドレスを引きずらないように、裾を上げて歩く。
着替え、サロンに置いたままだ。
貴重品だって。
もう、どうするのよ。
「ここだ。角部屋だな」
「部屋取ってたの?」
なんてことないって、顔だ。
「もちろん。ああ、ちょっと待って」
いきなり足元で屈んだと思うと、私の足をすくってドレスごと抱き上げた。
「ええっ?」
体が、ふわっと浮いて落ちそうになり、彼にしがみついた。
「花嫁と部屋に入る儀式。部屋に入るとき、こうして抱きかかえる」
ドアを開けて入ったところで、下された。
部屋の中は、息をのむような空間が広がっていた。
「何これ、こんなの見たことない……」
「ラグジュアリースウィート、ほんとにいい部屋だな」