サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
「そんなことない。たいしたことないのは、俺の方だ」ぽつりと彼が言う。
「ん……」
「一晩で、君は俺のこと、忘れられなくなる。そんなこと言う、余裕なんかなくしてやる」
彼の指は、ベールを一枚一枚、はがすように不要なものを取り去っていく。最後にドレス一枚になって彼を受け入れる。
脱がせていくところに唇を押し当て、何度も何度も甘いキスをする。
ソファの上で、ドレスの裾を広げて、彼は私を何度も抱いた。
私は、ずっと彼の腕の中にいるのに、見ている景色は、二面あるの窓ガラスから別々の景色を見ている。同じ景色を見ているのに、まるで違う方向を見ている。
ゆったりと広がってるドレスのまま、終わらない夜が続いている。
「ずっと見てたよ。食事をしている間も、会場をチェックしながら君がどう感じていたか、君が何を見ていたか。一秒も逃さずに。今だって……」
「やっぱり意地悪な人」
彼の体の重みを感じながら、キスの合間に答える。
「正直、恋愛の駆け引きなんて興味はなかったんだ。これでも、優秀な営業マンだったからね。でも。君の時は違った。
駆け引きなんかじゃなく、どうしても落としたい客のように、君の一挙一動じっくり見てたんだ。君の弱いとこ突いて、必ず俺のものにするって思ってた」
彼の話が何となく腑に落ちた。
そうやって、無理に気持ちを高めてるような感じ。
自然と感情が沸き起こるから行動するんじゃなくて。
自然に恋に落ちていくんではなくて。
どう、言葉にしていいのか分からないけど。
こんなこと考えるのは、取り越し苦労じゃないか?
あまりに、幸せだと、本当は魔法のかかった作り物で、朝起きたら何もなくなってしまうんじゃないかと不安なのだろうか?
「私そんなふうに見られてたの?」
「君は、最初から、俺のことなんか全然見てなかっただろう?
いつも、そこにいない人のことを考えていた。そうだろう?」
「えっと……」
そういうとこほんとに鋭いね。
人のことよく見てる。
「その通りだよな。二次会の会場の時は、まだよかった。だけど、気に入った指輪を諦めるとき、本当に泣きそうだっただろ?」
「見てたの?」
「ああ、だから早く泣けばいいのにって思ってた」