サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
挙式5カ月前 二次会の幹事をお願いします
木下竜也は、私の姿を見つけると、すぐに近寄って来た。
あっという間だった。私は、電話中だったから、運悪く逃げ遅れた。
「花澄ごめん。ほんと、自分勝手なのは分かってるんだ。でも、他に引き受けてくれる人がいないんだ。やってくれないかな」
彼は、辛抱強く電話が終わるまで、暑苦しいほどにぴったり横について待っていた。
そして、彼は、タイミングを見計らって、両手を合わせるようにお願いのポーズをする。
そんな計算されつくした態度に騙されるか!
と、こいつのしたことを考えれば、八つ裂きにしたって足りないんだけど、そこは、大人だから、クールに答える。
見た目だけでも。冷静に。冷静に。
「無理に決まってるでしょ?」私を誰だと思ってるのよ。
お世話になった先輩のためだから、どうにかしてあげたい気持ちは心のどこかに、ないこともない。
けど、今度ばかりは、言うことを聞いてあげるわけにはいかない。
会社のほとんどの人間が、私たちのことを知らないとしてもだ。
「なあ、花澄、結婚式の二次会、どうしてもやらない訳にはいかないんだ。会長以下、お偉いさんも出席するって言ってるし」
それで?だから?
数限りなく口汚い罵声を思いついて、頭から浴びせたって、この人は変わらない。
多分、死んでも。死ぬまで見届ける気持ちなんてないけど。
数か月前まで『死ぬまで一緒よ』なんてほざいていた自分を消し去ってやりたい。
なんだっけ?
ああ、結婚式の二次会か。
彼が、上役の事を気にするのも当然だ。
花嫁の父親、誰だと思ってんですか?
娘が命っていう西田専務じゃないの。
あんなに可愛がってる愛娘のことなんだから、気にするに決まってるでしょ。
私は、彼を押しのけて言う。
「だから、ダメですって。はっきり断ってるじゃないですか。念のため言っときますけど、私は、二次会を開くのは、反対してませんから。勝手にして下さい」
でも、私は、式なんか行かない。
二次会なんて死んでも行かないから。
多分、その日は、有休取って地球の裏側のビーチでのんびりしてるわ。
トロピカルドリンクでも飲みながら。