サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
30分後……
人生は、ままならない事が多い。
私は、ちょうど探していた女の子二人組に声を掛けて、質問したところだ。聞いたことに答えてくれたら、チョコレートをあげるからと、彼女たちに言った。
単純に賄賂を渡すくらいしか思いつかなかった。
「えっと、あのねどうしよっか?」二人で顔を見合わせる。
行くか行かないか聞いてるだけなんだけどな。
女の子二人が、私の少し上を見て、
「ああ、どうしたんですか?」
と上ずった声をあげた。
意外に協力的ね、と思ったのも一瞬で雲行きが怪しくなり、気配を感じて後ろを振り返ってしまった。
私は、声の主を見上げた。
質のいいスーツを着こなして、見た目は完璧だけど。
機嫌はよくなさそうだ。
「あっ……」
「あっ、じゃねえだろ。あんた、こんなとこで何やってんの?」
呆れたというより、冷ややかな声で彼がいった。
補導員に見つかった家出少女のように、私はピクッと首をすくめた。
しまった。営業企画も、営業と同じフロアだったか。
私は、例のリストの事で、西田嬢と同期の女の子たちを呼びとめて、二次会の出欠をとしていたところだった。
チョコレートの賄賂を渡して、彼女たちのご機嫌を取りながら本音を聞き出そうと思ってた。
井上氏に会うなんて、想定外だった。
このフロアで彼が働いてたことも忘れてた。
ここには、久美子に会いに何度も来ているのに、声をかけられたことなかった。
私は、竜也にもらったリストを彼に見えないように手で丸め、話題を百八十度変えるべく、飛び切りの笑顔を作った。
後は、気付かれないように、いつの間にか後退りしていなくなろう。
「なに、それ?」
一瞬、手に持ってたチョコレートを出そうと思った。
でも、こんな手が通じるのは高校生までか。
三十のおっさんには無理だろうな。
私が今、思い付いたばかりの出鱈目な話をしようとする前に、井上真裕は、さっと私の手元からリストをさらった。
すぐに紙を広げて思案中。
何やら、シビアな顔で熟読中だ。