サプライズは、パーティーの後で ~恋に落ちた御曹司~
バタンとドアが開き、彼が入って来た。
部屋の空気が変わって、緊張した雰囲気になった。
「井上さん、あの……」
久美子が何か言う前に、井上さんが遮った。
「分かってる。資料見たから」
機嫌が悪そうには見えない。仕事中だから当たり前か。
「それで?どうするんですか?」
久美子が対応してくれてる。これで二人きりだったら、私、どうしてたんだろうと思うと恐ろしくなる。
どうしよう。井上さんと口きけない。
彼が入ってくる前に、部屋を出て行けばよかった。
少しだけでも、彼から遠ざかろうとして、椅子をずらした。もっとずらそうと思ったら、青木君の腕に引き留められた。彼は、目で大丈夫だからと引き留めた。
青木君に顔を向けてた時に、声をかけられた。
あの、バリトーンのよく通る声だ。
「花澄、話がある」
背中に置かれた青木君の手に、力がこもる。
大丈夫だからここにいてと、やっと聞きとれる大きさの声で言う。
「どうするか具体的に決めてるんですか?」
久美子が尋ねた。
久美子が、井上さんを無視して言う。強いなあ久美ちゃん。私ならあんなふうに睨まれたら、穴掘って隠れたくなるよ。
「同期の方は、俺が連絡するから心配するな。でも、今日は別のことで、花澄に話がある。ちょっと席を外してほしい」
さすがに、意味不明だろってつぶやく声がした。
井上さんって、本当に意味不明だ。私もそう思う。
「何でですか?」
青木君が直ぐに抗議した。
「君は、当事者じゃないから」
取り付く島がないって感じで答える。
こういう時すごい迫力を感じる。
「えっと……」
何か言わなくちゃ。
「わかりました。くれぐれも、花澄に変なマネしないでくださいね」
久美子が先に立ち上がった。
部屋を出て行こうとしてる。
「ちょっと、いくらなんでも、同席ぐらいしてもいいでしょう?」
青木君が、私の隣で離れないように、しっかりガードしててくれる。
「悪いな。君、いくらなんでも、どうしても、出て行ってもらう。花澄と二人っきりにしてくれ」井上さんが、失礼なぐらいに威圧的に言う。
「ふざけるなよ。花澄が何したっていうの」
珍しく青木君が逆らってる。
「こんな場所で、何かするわけないだろ?時間がもったいない。早く出てってくれ」