アクアリウムで魅せて
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今の彼と知りあったのはとある飲み会だった。
よく分からない自慢話を、ペラペラと話す周りの男性。私は少し退屈していた。


受け狙いなのか、本気なのか。


愛想良く相槌を打って「うんうん」と話を聞いている振りをして。
「まぁ一人で飲むよりはマシかぁ〜」なんて思いながら、周りを見渡すと今の彼と目が合った。


少し眠そうな目。
きっと私と同じ、この空間に飽きちゃった人。
周りに合わせて何となく笑っているようなタイプの彼に、特別気を惹かれもしなかったけど。

話してみると意外とそれが面白い人で。


「昔さ、中学の時とかにああ言う自慢話する奴いたよな」


コソッと私に耳打ちする彼に、思わず二人して吹いてしまって。
笑った顔も優しい雰囲気も、その時直感で、素敵だなと思ったのを、今でも覚えている。





一ヶ月前、その彼に浮気をされた。
それも今回で二度目になる。


絶対許すもんかと腸が煮えくりかえりそうな思いだった。
私だってプライドはあるのよ。
簡単に許されるとでも思っているの。


「ごめん」だとか「そんなつもりは微塵もなかった」だとか。

その言葉がどれだけ私を傷つけているのか、貴方は分からないの?



『やっぱり俺には、香織しかいないって改めて実感したんだ』



『香織』



そう言って私の髪に口付けるのはやめて。誤魔化そうとしないで。……流されそうになるから。


目が合うと、辛そうに歪む彼の顔。
泣きたいのは私の方なのに。

でも……。
私がいなきゃ、きっと彼はダメなんだ。





「これで最後。約束して」



こくこくと頷く彼を愛おしく思った。
落ちてくる優しいキス。


私はそっと目を閉じて、


「彼は私じゃなきゃダメなんだ」



何度も何度も頭の中でそう繰り返した。

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