KANON
俺は、口の中にあるビールをゴクリっと飲み
「何?」
て。なんか怖いんですけど…
「名前…。私に名前つけてくれませんか?」
俺は耳を疑った
「え…?俺が?」
彼女はゆっくり頷きまた口を開いた
「君とか、あんたとかって呼ばれるのが嫌だから…」
なんか恥ずかしがってる…
またちょっと可愛く見えた。
「確かに、名無しのゴンベイさんじゃ、いくらなんでも嫌だよな…」
俺は、ソラの写真をふと見て思いついた。
「カノン…はどう?」
彼女の表情を見ながら反応を待つ。
「カノン…」
気に入らないのか?
しばらく沈黙になる。
「…いい…名前ですね…」
少し笑った。
なんかちょっと嬉しいかも…
「うん。記憶が戻る望みが叶うように、カノン」本当は違う。
俺の金井とソラの野山を掛け合わせただけだ。
「あの…私は、何て呼べばいいですか?」
彼女は俺を見上げるように見てきた。
「あ。俺?べつに、なんでもいいよ。翼でも金井さんでも…呼びやすいようにして」
カノンはまた俯いた
「つーさん…」俯いた顔をゆっくりあげる。
俺は目が点になった。
「つーさん?まぁ、いいや」
俺は苦笑いをした。
こうして、俺と記憶喪失のカノンとの暮らしが始まった。
ある日、会社の廊下を歩きながら順平とカノンの事を話した
「え?マジかよ⁉︎本気で言ってんの?」
順平は俺に身を乗り出すように聞いてきた。
俺は話すのが面倒になってきた。
「だって、本当に記憶ないみたいだし。このまま放り出すわけにいかないだろ…」
「ったく!お人好しすぎじゃねぇの…」
順平が呆れた顔で言った。
その後、順平がカノンに会わせろとしつこく言うから、仕事を定時に終わらせ順平を自宅に連れてった。
玄関を開け中に入ると、カノンはリビングの窓際で立ったまま海を眺めていた。
「カノン…?」
と俺が呼びかけると、カノンはゆっくり俺に振り返った。
「今日、友達連れて来たんだ」
俺の背中から顔を出す順平。
「順平〜です」芸人のマネをして言った。
カノンは冷めた表情で、また窓を見た。
「あれ?すべった…?」
さすがに古いだろ…
俺も青ざめた。
順平はソファーに座った。
なんか歌でも流すかぁ〜
オーディオのリモコンを適当にいじり、再生ボタンを押す。
ベートーベンの第九番曲が流れた。
順平は腹抱えて笑いだした。
「翼〜いくらなんでもベートーベンはないだろ〜?バンプとかセカオワとかねぇの〜?」
俺はリモコンを取り上げる
「っるせぇなぁ!たまに聴きたくなんだよ」
ふとカノンを見ると、ボーッとオーディオを見つめ後ずさりしている。
「カノン…?」
カノンは、両手で頭を抱えだし叫び始めた
「やめて!!やめて!!いや〜!!」
俺はすぐ曲を止めカノンの元に行った。
カノンは尋常じゃない震えさで、怯えて耳を塞ぎしゃがみ込み叫びが止まらない。
「カノン‼︎」カノンの両腕を握り怒鳴り声を俺は出した。
カノンは、ピタリと叫びが止まった。
体はまだ震えている。
ゆっくり顔を上げ俺を見ると、気を失った。
俺はカノンの体を揺さぶりながら、呼び続けたが気を失ったままだ。
とりあえず、ベッドへ寝かせ様子みる事にした
順平は、帰る事にし玄関まで見送る。
「なんか…オレやばい事したかな…」
靴を履きながらボソッと言った。
「いや、大丈夫だと思う…おまえが気にすることねぇよ…」
「カノンちゃん…あの曲に何かあんのかな…」
俺は少しカノンに振り返り、首を傾げた。
順平は、カノンを少し気にしながら、玄関を出た。
俺は、リビングに戻ると、カノンはベッド上で起き上がり座って俯いていた。
俺はカップスープを渡しに行く。
「はい…あったまるよ」とスープをカノンの前に出す。
カノンはゆっくり手を出しカップを受け取る
カノンはスープを見つめていた。
俺は、リビングに戻ろうと立ち上がると…
「ピエロ…」とカノンが呟いた。
俺は、カノンのそばに戻り座る。
「ピエロ…?」カノンの顔を覗き込むように聞いた。
「ピエロ…がいた。あの曲が流れた時」
カノンは、カップスープを一口飲み、カップスープを残したまま消灯台に置き、再び布団にもぐった。