KANON

カノンが居なくなって1週間が経った。

俺は会社に行っても仕事に身が入らなかった。

昼休み、順平が外から部署に戻ってきて青ざめた表情で俺を呼んだ。

「さっき、カノンちゃんらしき人見たんだけど…」

「見たってどこで?」

「駅前で、なんか思い詰めた感じだったから、声かけようとしたら、男の人と街中に向かって歩いてった」

男?なんで?

俺は、順平が話を参考に走って会社を出た。

順平が呼び止める声も聞かずに。

俺は、カノンに会って確かめたかった。

あの時のキスは何だったのか。

俺に抱かれた夜は何だったのか。

駅前から、俺は自分の勘を信じてカノンの姿を探した。

カノンが男の人とロイヤルホテルに入っていく姿を見た。

俺は、叫んだ。力一杯カノンに聞こえるように

「カノン‼︎」

カノンは、ロビーに入ったとこで立ち止まり、ゆっくり周りを見渡す。

振り返った時、ホテルの入口に立つ俺を見つけた。カノンは目を見開き俺から目を反らした。

俺はカノンの前に駆け寄った。息切れしていた

カノンは俯いたまま動かなかった。

カノンと一緒にいた男が受付を済ませ、戻ってきた。

男は20代位の爽やかな青年だった。

「あの…どちらさまですか?」

「あんたこそ誰だ!」
俺は、青年を睨んだ。

「僕は彼女の婚約者です」

俺は、目が点になった。

「は?婚約者…って」半信半疑にカノンを見ると、カノンは俯いたままだった。

「もしかして…彼女を保護してくれた方ですか?」意味深な笑みで男が聞いてきた。

保護って。俺は目を合わせる事が出来なかった

「僕は、あなたに感謝します。彼女をずっと探してたんです」
俺の手を握り、目を輝かせて言ってきた。

俺は、何も言えずにいた。

カノンはその男に肩を組まれて部屋へと歩いて行った。

俺は、ただボー然と見ているしかなかった。

俺は、肩を落として会社に戻った。

順平が俺に声をかけるが、俺は返事もせず席に座った。

しばらくボーッとパソコン画面を見ていた。

順平が俺の肩を強く叩き
「つばさ!」

その声に俺は順平を見た。

順平はパソコンを指差して「どした?」と言った。

俺はパソコンを見て、大きくため息をついた。

画面にはカカカ…と打たれていた。

順平は、俺の異変を察して飲みに誘ってきた。

俺は順平と2人で小さい居酒屋に行った。

カノンの事を話した。

順平は黙って俺の話を聞いていた。

何も聞かずに遅くまで付き合ってくれた。

俺をマンション近くまで送って順平は帰った。

暗い部屋に俺は、癖のようにリビングのソファーで横になって寝た。

朝、目を覚ましても。なんだか心にポッカリ穴が開いたような感じだった。

ソラの存在よりカノンの存在の方が大きかった事に今更ながら俺は気付いてしまった。




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