それでも僕らは恋と呼ぶ。
*瞬くと星
「月が綺麗だね」
目の前でチャリを押しながら、その子はそう言った。
その言葉にうながされてオレも空を見上げる。
空には雲が浮かんでおらず、大きく綺麗な丸い光が浮かんでいた。
それを邪魔しないように、小さな光がらんらんと空を埋め尽くしていた。
「あぁ、綺麗だな。空が綺麗だな。月も星も綺麗だし」
「・・・うん、そうだね」
オレの返答がいけなかったのだろうか。
彼女はつまらなそうに顔を背けてしまう。
オレはいまいち自分の悪いとこが見つけられず、諦めて目の前の子と普通に会話を展開していった。
「今日も遅くなったな」
「そうだね。でも、演奏会近いししょうがないよ」
オレ、「如月棗」と、彼女、「佐野南」は吹奏楽部に所属している。
2週間後が本番となる演奏会にむけ、遅くまで部活をしていた。
ただでさえ暗くなるのが早い時期だというのに、かなり遅い時間なものだから空はどっぷりと暗い。
だからいっそう、月の光が眩しく感じる。
「でも、寒いのはやだなぁ」
佐野がひょいっと自転車にまたがる。
月の光だけがたよりな視界で、佐野の肌がやたら白く見える。
その感想を頭に浮かべたとき、自分の視線がいやらしいことに気づいてひょいっと視線をずらした。