死神喫茶店
夕方5時から10時までという営業時間では、どれほどの客も見込めない。


それでも河田さんはこの営業時間を変更するつもりはないらしかった。


あたし自身も、5時間勤務で1時間休憩がとれるのでそれについて文句を言ったことはなかった。


週に数回、たった4時間だけ働いても大したお小遣いにはならないだろうと思われるのだけれど、『ロマン』の時給は1日5千円と、学生にとってはかなりの高収入なのだ。


数か月前、偶然両親とこの道を通り『ロマン』で休憩をしたりしなければ、こんないいバイト探す事はできなかっただろう。


あたしは一通りの掃除を終えてカウンター内へと戻った。


「掃除、終わりました」


「助かるよ。俺はこれから1つ仕事が入ってるんだ」


「今日のお客さんは早いですね」


「あぁ。開店前から店の前で待ってたから、先に店内に入れたんだ」


そう言い、河田さんは透明のビニールカッパを身に付けた。


もちろん、『ロマン』の店内にはまだお客さんは1人もいない。


それに、今日は雨はふっていないので外へ出るにしてもカッパは不必要だ。


ここでバイトを始めた時は河田さんの言動が理解できなくて首を傾げていたけれど、最近ではそれも慣れっこだった。


それに、お客さんがすでに『店内にいる』のなら急がないといけない。


「じゃ、お店の方は頼むよ」


「はい」


河田さんはあたしの返事を聞くより先にカウンター後方にある食器棚を手のひらで押した。
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