死神喫茶店
するとその棚は低い音を立てながら回転し、河田さんは向こう側へと続く部屋に消えて行ったのだった。


まるでからくり屋敷のようなお店に最初は驚いていたっけ。


あたしはコーヒー豆の準備をしながら思い出していた。


ただの小さな喫茶店だと思っていたのに、奥ではあんな事が行われているなんて……。


「あ、ホット用の豆がないじゃん」


カウンターの下の棚を開けてみるが、いつもの定位置に豆の袋がない。


在庫は今河田さんが消えて行った向こうの部屋にある。


「あ~あ、めんどくさいなぁ」


あたしは文句を言いつつ、もう一つ用意されているビニールカッパを身に付けた。


ここから奥の部屋へ入るには、外の天気関係なくこのカッパを身に付けないといけないのだ。


しかも!


河田さんが用意してくれたあたしのカッパは派手なピンク色で、着るだけでも恥ずかしい。


目がチカチカするような蛍光ピンクのカッパは未だに慣れなくて、袖を通すと同時にあたしは隠し扉を開いた。


瞬間、奥の部屋のどくとくの生臭い臭いが鼻を刺激した。


さっきまでのコーヒーのいい香りとは違い、血の匂いが充満している。


その急激な変化に一瞬胃が悲鳴を上げるが、それをどうにか我慢した。


最初の時は我慢もできず、気分が悪くなって早退していたけれど最近ではそれもなくなってきた。
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