太陽と月の後継者
着くと、真っ黒のマントを渡してきたクラン。
いつの間にか彼もマントに身を包み顔を隠していた。クロエも髪と顔を隠すと後ろについて歩き始める。
いつもの彼とは打って変わって、無表情でただ前を見ていた。
目の前には、上級魔法使いの選別を受けた時に見た顔。
「シド…様?」
シドは死神隊長。
威厳のある嗄れた声が発せられる。
「覚えていてくれたのか。」
少し、喜んだように感じる声色。
前は怖いと思ったクロエだが、
自然と安心できた。
「彼女をお願いします。」
クランはそう言うと、姿を消した。
「行こうか」
薄気味悪い雰囲気の漂う
此処はきっと路地裏。
もう少し進むとスラム街だ。
「此処は、奴隷の住処だ。
決して目を合わせるな。」
足元を鼠が這って、その鼠を捕まえる者達
こちらを恨むような視線を向ける者達
慈悲を待ち望む者達
いっそ殺してくれと頼む者達
世界の総人口約40億人、そのうちの約8億人が奴隷。
かつてヒルダが話していたように、その場所は街よりも人の気が多い気がする。
初めて、こんな場所を目撃したクロエには衝撃的だった。