太陽と月の後継者

シドは路地裏を抜けると、スラム街に出た。

奴隷商人が立っていて、鎖につながれた足やぼろぼろの布が見える。

シドの顔を見た奴隷商人は頷いて中へ入っていった。

暫くして出てくると、一つの箱をシドに手渡す。

シドは一つの袋を商人に渡した。何かを買った。何かは誰でもわかると思うが。

すると、奴隷商人は驚いた顔をしてこちらを見ると手を伸ばしてきた。

『…え』

反射的に身構えるが、その手をシドが叩いた。

商人ははっとすると一礼をする。

(何をされそうになった?)

頭の中でぐるぐると回る疑問。ふと、前世であるクロエが奴隷だったことを思い出す。

冷や汗が背中を伝った。

「来なさい」

シドは、再び歩き出す。その方向は、もっと暗い場所。

「グァアアァア!!」

おぞましい叫び声がする。


気付けばある建物の中で、檻が沢山並んでいた。

その中でも、一際大きな扉の前に立ち鍵を差し込んだシド。

幾つもの金属音がして扉が開く。

中には、更に一つの大きな檻があった。

ーガチャン

大きな音をたてて、扉がしまる。

「…何のようだ。」

地を這うような声が聞こえて前をしっかり見つめた。

『っ…』

目の前には
何度叩かれたのか、
何度蹴られたのか、
何度身体を弄られたのか、

たくさんの傷と火傷を負った男がいた。

「怖いんだろ?」

クロエが首を振ると、男は笑い出した。

「クックックッ…ハハハハ!!

怖くない筈ないだろ?
お前、何処の嬢か知らねぇが
俺を舐めてると痛い目見るぜ?」

シドはやっと口を開く。

「お前のこれからの主人だ。」

その言葉に、クロエも男も反応する。

『あの、私はそんな…』

シドはクロエを黙らせるように見ると、男を見る。

「主人に相応しいか、
自分で確かめるがいい。

必ず認める筈だ。

…認めざるをえない。」

男は鎖のついた手を壁にぶつける。

「あ"ぁ?

誰がこんな女の奴隷なんかに…。」

“人間は嫌いだ。”

と言った男にクロエは近づいた。

『…シド様鍵をください。』

シドはクロエに鍵を渡す。クロエは驚いたことに鍵を開けて檻の中へ入った。

これには、ふたりも驚く。

『貴方は何に脅えているの?』

クロエは1歩手前というところまで近付き片膝をつく。

「……何に怯えているって?

俺が何に怯えているか?




ふざけてんじゃねーぞ!!!」

ーガシャン

大きな金属音と共に、クロエの顔に殴りかかる。

それを彼女は避けない。

「何故、避けない。」

彼女の頬をかすめた拳は、美しい頬にか擦り傷を付けた。

フードは後ろに下がり、
顔が顕になる。

血がぽたりぽたりと床に落ちる。

瞬間、男は目を見開いた。

「お前…」

傷はすぐに治った。

異常な速さで。

「天羽…なのか?」

消え入りそうな声に、クロエは頷いた。
男は下を向くと、笑った。

「俺の……負けだ。」

シドは、その言葉を待っていたかのように男の鎖を外した。

ーガシャン

重々しい音と共に、長年の重き鎖が外れる。

男は暴れることも叫ぶことも逃げることもせず、座り込んだまま。

先程までの勢いはどうしたのだろうか?

クロエは気付いていた。

彼の中に流れる天羽の“血”を…。

「俺の親の祖父のそのまた祖父は

屑野郎で、天羽を殺したんだ。

今から1500年も前の話だ。

俺の一族はお陰で不老と長寿を手に入れた。

普通、天羽を飲んだそいつだけなんだろうけど、俺達の一族は純血の一族だったからか影響が大きかった。

親父の祖父のそのまた祖父は、
そのことをずっと悔やんでいたそうだ。

そのあと、天羽の中毒性にとうとう狂ってしまったらしいけど。

俺達の一族は、次、天羽に会ったとき
必ず守るようにと言われていた。
それに出会って感じたんだ。俺の中の天羽の血が騒いでいるのを…。

だから、俺はお前に抗えない。」

そう言った男は悔しそうに笑った。

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