太陽と月の後継者


ーガチャ

大きな音をたてて開いた訓練室の扉。

ふたりは寝転びながらそちらに視線を送った。

「何やってるのよ。
もうとっくに閉鎖時間過ぎてるわ。」

ビアンカが呆れたように仁王立ちしてこちらを見ている。

リオの中性的な美しい顔は、ビアンカの姿を見ると花が咲くように微笑んだ。

ヨウテスも気が抜けたのか上半身を起こす。

「夜の9時過ぎちゃったじゃない。クレア達心配してたわ。

ここしか貸し切られてなかったから入ってきちゃったんだけど…

当たりだったみたいね。」

ビアンカはマシンガンの如く喋り出す。

ふたりの何時もと違う様子にやっと気付いたのかキョトンとした。

「夕食…食べない?」




少し静まると、ヨウテスがビアンカに聞いた。

「なぁ、ビアンカは族長になりたいとか考えたことあるか?」

ビアンカはこれまたキョトンとしてリオとヨウテスの隣に座った。

「そうね…

私は物心ついた時からずっとお兄様の背中を見てきた。

だから、自然と族はお兄様が継ぐと思っていたわ。」

“でも…”

とビアンカは続きを話す。
ヨウテスとリオは黙って聞いていた。

「今の悪魔族にはお兄様がいない。覚悟しなくちゃいけないと思っているわ。」

寂しそうに話し終わると、ヨウテスとリオは少し癖のある髪を撫でた。

「な、なにするのよ。」

“気持ち悪い”

と後退するビアンカにリオは苦笑いをした。

「寂しかったろ」

ヨウテスは妹の頭を撫でるようにそっと手を置く。

ビアンカは、堰が切れたように静かに泣き出した。

「私…強くないのに…ヒック…皆、言ってるわ…ウッ…悪魔族は…終わり、だって…」

急に周りから期待されて大変だっただろう。

リオはそっと後ろから包み込む。

ビアンカは、自分の弱さが嫌いだった。
兄のような強さが欲しい。
周りの自分を卑下するような言葉に、
ビアンカは自信を失いかけていた。

「ビアンカ…ビアンカは、誰よりも素直で心優しい。

君ほど人の気持ちをわかってあげられる子はいないよ。

そんな君に、心を動かされた子を思い出して?」

リオの優しい言葉に、
ビアンカの涙はとめどなく流れた。

頭の中に浮かんだのはクロエ

初めての友達

ヨウテス達に出会わせてくれたのも、
すべて彼女のおかげだ。

そんな彼女が言った言葉。




『私、ビアンカちゃんみたいに素直にモノを言える人、凄いと思うよ。』



その言葉にどれだけ救われたことか。

自分にも誇れることがある。

そして、同じことを言ってくれたリオ。
やはり彼は何処か懐かしい。

ビアンカは悲しく睫毛を伏せた。

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