太陽と月の後継者
ーバンッ
いきなり大きな音を立てて開いた牢の入り口の扉。そこには、珍しく焦った顔をしたシルバーとゲーテがいた。
『なにかあったの?』
「行くぞっ」
乱暴に二人がクロエの手を掴む。二人の不安そうな瞳にクロエも感化される。
「神官が来た。ここは危険だ、早く行くぞ。」
あとからキルアとエルが入ってくる。
「一応この部屋に結界を張ったがもう時間はない。」
二人も後から手を握った。
「ーループー」
キルアがループしてきた場所は深い森の中。
「此処は私の住んでいる森。
私たち幻獣の住処。」
人間になりきれなかった物の集まるところだとキルアは言った。
「魔獣とは違う、皆優しい。」
片言で言ったキルアは愛らしい笑顔を浮かべた。
『他の皆はどうなったのかな...。』
「大丈夫、彼らはちゃんと逃げ出した。
けど、クランは捕まった。」
その言葉にクロエは真っ青になった。
「彼は前に死んだ仲間をクロエ様と重ねていた。クロエ様を見るたびに胸が痛んだ。今度は守らせてくれと心の中で叫んでいた。」
『心の中?』
心の中と言ったエルを見てクロエが聞いた。
「俺とキルアは守護獣であり、クロエに使える神獣。心の中を読むことなんか簡単だ。」
エルはそう言うとシルバーを見た。何故か顔を赤くしてそっぽを向いたシルバーにクロエは首を傾ける。
『凄いね』
エルも顔を赤くした。
「ふっふー、エルは昔からクロエ様のこと大好き。」
「ばっ、何言ってんだよ!」
「本当のこと」
そんな二人をクロエは目を細めてみていた。
ふと、頭がキンとして目を閉じる。
ーエルは本当にクロエ様のこと好き。
ー何言って...
ークスッ 仲がいいわね。
密かに森の中で出会って仲良くなった三人。
前世のクロエだ。
ぐるっと視界が変わると、また同じ森に小さい少女と二人。
少女はぼやけて見えないがとても楽しそうだ。
そして、もう一人光に包まれて見えない少年。
(少女と、少年は誰?)
頭痛が治まると目の前には不安そうな顔をした四人が居た。
「ぼーっとしてたけど...大丈夫か?」
ゲーテが心配そうに顔を見てくる。
『うん、前世のクロエの記憶と...小さな女の子を見てたの。』
「見えるのか?」
『最近多いんだ』
流石に未来を見たとは言えないクロエは躊躇いがちに笑った。
「覚えてるか?この森に小さい頃クロエ様は来たことあるんだ。」
懐かしそうに記憶を辿る二人。
それは1000年前の事だ。
先ほど見た記憶はきっとその時の物だろうと思いを巡らせる。
『ごめんね
私、1000年前にエミリアに封じられた日の記憶しかないの。子供時代とか、近所の人とか...お父様の顔も...お母様の顔ですらうろ覚え...。』
静かな静寂がその場を包む。
「じゃあ、あの御方のことも覚えてないのか」
その言葉が変に頭に響いた。