太陽と月の後継者
ーザシュ
「やったわ!!!」
風を切る音が響き渡った。
黒の騎士の刃はクロエにあと数ミリというところまで迫っている。
誰もが負けだと思ったその時。
それを、
クロエは指先だけで受け止めそのままパキンと折った。
黒の騎士は剣が命。一瞬にして影のように消える。
『力魔法』
クロエの左頬には一筋の切り傷。静まり返る会場。しかし、不思議なことに傷は一瞬で消える。フードは破れ、使い物にならなくなったためマントを脱ぎ捨てた。
その美しい容姿が露となり、会場は再び静けさに包まれる。
『マントがなかったら危なかった。』
「なっ…」
周りから見れば、マントが切れただけだ。
しかし、ビアンカから見れば、尋常じゃない速さで傷が治った。ビアンカは目を疑うしかなかった。
ーワァアアア
静けさのあとには歓声の嵐。
『龍たちよ、呑め。』
四の龍が大きな口を開き、ビアンカ目掛けて飛んでいく。まだ、頭が混乱しているビアンカは動けずにいた。
「(やられる!!!)」
ビアンカは、目を瞑ったその時。
ーやめぇええええい!!!
学園長のけたたましい声が響き渡った。
シールドは、同時に消える。
観覧席との境界線はもうない。
「が、学園長だ!!」
「私、初めて見た…」
『イズミ…?』
クロエは龍を消した。
イズミは、いつもよりも老けて見える。
否、魔法だ。
イズミは真の姿を誰にも見せてはいないのだ。
「第二試合はクレア・フルームの勝ちじゃ。そなたは強力な魔法使いのようじゃな。…予選通過じゃ」
『っ…!』
危なかった。イズミの言葉がなければ今頃ビアンカを傷付けていたかもしれない。
クロエは身に余る強い魔力に恐怖を覚えざるをえなかった。
ーワァアアア
学園長の言葉に会場は大盛り上がり。ビアンカはというと、唇をかみしめ俯いている。
「ぃ…」
『え?…』
「悔しいって言ってるの!何なのよっ私より美人だしスタイル良いし…魔法もできるなんて…何でも持ってるじゃない。
反則よっ!!!」
バッと顔を上げたビアンカは涙目になっていて、逃げるように闘技場を後にした。
『…ぇ』
もう見えない後姿をクロエはボーッと数秒見つめ続けた。
そして、クロエはビアンカを追いかけ退場したのだった。