太陽と月の後継者




ーグォオオオオオンッ!!!

「う、うるさ…い」

クロエは顔を顰めながら魔獣を見る。

見かけは、顔が鋭い角の牛。胴体がゴリラ。
下半身が蜘蛛。

なんとも言えない容姿だ。

「ごめんね。

私、貴方を倒さなきゃいけないの。」

クロエはそう言うと、光が包み込む杖を手にした。





一方、ルカは相変わらずのポーカーフェイスと巧みな魔法で一瞬のうちに勝利し、闘技場へ戻ってきていた。

「おぉっと!ルカ選手っ、早くも魔獣に勝利して戻ってきたー!?なんという速さっ。

おーっと、またまた戻ってきました!
謎の預言者、Michiru選手です!!」

開始約5分でふたりは戻ってきた。

ふたりとも、モニターをじっと見つめている。そこには光の中で闘う者がいた。

そう、クロエだ。

彼女は魔獣に語りかけている。

「こんなことに利用させるなんて…。
せめて、苦しまずに…」

悲しい笑顔を浮かべて目が眩む程の光を放った。

ー慈悲の光ー

この光を受けた闇の類のものは、痛みも、悲しみも感じず果てていく。

次の瞬間には、クロエも会場へ戻ってきていた。

「おぉーー!!早い、はやすぎる!!

ルカ、Michiruと続きクレア選手!
いよいよ、残りひとり枠を争う闘いとなりました!」

モニターには、苦しそうに息をする元不良のジンと、六大貴族で戦闘に慣れている涼しい顔をしたリオが映っていた。

「俺は、あいつに復讐するって決めてんだよ!!」

ジンの瞳は怒りに満ちている。

「…決まりだな」

『え?』

ルカが言った言葉に、
クロエは目を瞬いた。

「完全にジンは冷静さを失っている。冷静さを失うことが、戦闘にとってどれだけ命取りになるか…。」

確かにそうだが、そんなことを言っているルカを、クロエはやけに詳しいなと思い見ていた。





暫らくすると、ルカの言ったとおりリオが先に帰ってきて、ジンが一番遅かった。

「…っくっそが…!!」

キッとリオを睨むジンは、今にも飛びかかりそうだ。

「準決勝進出者は
ルカ・オスロ
Michiru
クレア・フルーム
リオ・クラネスっ!!!!

今年は本当に白熱した戦いとなっていますねー。残念ですが、ジン・アクロスさんはここで退場となります。」

ジンはリオをみたまま動かない。

「あの、俺が先輩に何かしたかは知らないけど。あてつけみたいなの、嫌なんで辞めてもらえませんか?悔しかったらいつでも相手しますよ。」

リオは可愛い顔と反してどす黒い笑みを浮かべながらジンに言い放った。

ジンはチッと舌打ちをすると、会場から姿を消す。



「はいはいみなさーん!

組み合わせが決まりましたー!

第一試合
MichiruVSリオ

第二試合
ルカVSクレアっ!!

楽しみです楽しみです!!
非常に楽しみです!
いやまず、
Michiruの素顔の方も気になるっ!!

それでは選手の皆さん、
控え室へ移動してください!」

『ルカ…』

クロエはルカと闘うことを少しためらっている様子で会場を後にした。

その後ろ姿を、ルカが見つめる。

「…」

リオとMichiruは退場することなく
第一試合を静かに待っていた。

「只今より第一試合が開始されます!!……ーーー」

司会者の声を背に受け
クロエは静かに瞼を閉じた。





< 73 / 220 >

この作品をシェア

pagetop