太陽と月の後継者
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「来てくれたのか!イザベラ。」

階段から降りてくる、
スマートな身のこなしの
隣国ジャータ国の国王アレン。

今の名前は仮の名でイザベラ。
貴族の家の箱娘という設定だ。

妃が亡くなって以来
彼は相当な遊び人。
クロエが来てからその遊びも少なくなってきている。

0としての初“任務”も順調らしい。

『9日ぶりですね、国王陛下。』

口元に綺麗な弧を浮かべると、
彼の喉仏はゴクリと揺れる。

姫を腕に乗せて階段の上から見ているコウは、
まるきり初対面の人のような表情だ。

「紹介するよ、彼は娘の
世話係のテナ君だ。」

クロエはコウに会釈する。

「そして、テナ君の腕にいるのが
我が愛娘のチユだ。」

チユを見る目はちゃんとした父親の目で、
クロエは安心し、チユに向かって微笑んだ。

「おねえさん、きれい。」

愛らしい笑顔を浮かべる幼い姫は、
コウによって部屋へ連れられた。

クロエはアレンに連れられて長い階段を登り、アレンの部屋…王室へと入る。

『可愛らしい姫様ですね。』

「あぁ…だがあの子は身体が弱くてね。
もう半年も、もたないんだ」

クロエはハッとしてアレンの顔を見る。

悲しそうに、姫と妃とアレンの写った絵を見ていた。

「妻と同じ不治の病でね。
あの子は、妻とよく似ている。

女遊びの激しい私にバチが当たったんだろう。」

そう言うと、何を思ったのかアレンはクロエに口付けをしようとした。

しかし、クロエは反射的にアレンを突き飛ばしてしまう。

『す、すみません!』

「いいんだ、私が悪い。」

眉を八の字に曲げて、
謝ってくる。

「今日は泊まるといいよ。

部屋を用意させる。」

『そ、そんな。
城に泊めていただけるなんて。
私には勿体無いです。』

アレンは、悲しそうに眉を寄せる。

「娘も喜ぶ。」

『……ありがとうございます。
国王陛下。』

「アレンと呼んでくれ。
どうも堅苦しい。」

アレンはかなりクロエを気に入っている様子だ。

クロエは、その好意に申し訳なさを覚える。

『アレン…様』

「あぁ」

アレンはメイドに部屋を用意させ
夜食を取り、シャワーを浴びると、
何もせずに言った。

「おやすみ、イザベラ」

『はい、アレン様』

クロエはアレンが遠くに行ったことを確認すると、
魔法を使って聴力を上げ、壁に耳をつけた。

《イザベラは眠ったよ。》

アレンの声が聞こえる。
もう一人は、下衆な笑い声を上げる男だ。

《そうですか……。
例の話ですが、計画は順調に進んでおります。
明日には決行出来るかと。》

《そうか、この町を燃やすのは…少々気が病む。》

《なにを仰いますか。貴方様の計画でしょう。人々の苦痛と共に消えゆく様を見たいと言っていたではありませんか。》

クロエは、
一旦壁から離れた。

街の破壊 計画 アレンの裏の顔

この計画は明日には決行される。

『アレン……何故そんなことを』

あんなに優しい瞳をしていたではないか。

クロエは信じられない気持ちでいた。

これが、今回の依頼の答えだ。

通信機であるイヤリングを軽く触り、心の中で、今の出来事を話す。

“『明日、ジャータ国に火が放たれる。
アレン王の計画です。
王は国を滅ぼす気でおられます。』”

すぐに返事は返ってきた。
頭の中にクランの声が響く。
変な感じだ。

“「よくやった!クレア。この事は、特攻隊と破頭隊に報告して処理してもらう。
クレアは隙あらば城を脱出しろ。
俺達の仕事はそれまでだ。」”

“「「「「御意」」」」”

全員の声が頭の中に聞こえる。
クロエは納得出来ない点が一つだけあった。

“『姫はどうなるのですか?』”

“「きっと、殺されるだろう。
だが、我々の仕事はもう終わった。

もう、関係のない話だよ。」”

クランの冷めた言葉に、肩を揺らした。

“『何故、助けられる命を
助けないのですかっ!?』”

“「それが、0だからだよ。俺達も昔はクレアと同じような考えを持っていた。

我々独自の判断で、人を救った。

何が起きたと思う?

何も変わらなかったよ。
それよりももっと酷い結末になった。

他人に干渉しすぎるな。

これが0にとって一番の課題だ。
いいね?」”

クロエはクランの話を聞いて
耳を塞ぎたくなった。

助けたくても助けられない。

あの五大魔法使いでさえも、
罪には勝てないのだろうか。

“『御意』”

クロエは、そう答えるしかなかった。

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