太陽と月の後継者

「姫……!…へ…か!どち…に…っ!」

「は…く…げて!」

熱風と共に目を覚ます。

クロエは、眠気が一気に吹っ飛んだ。

燃え盛る炎が、目の前まで迫っている。

『ー水龍ー

城の火を消せ!!』

水龍はクロエの部屋を水浸しにして、
火を消化すると部屋を出ていき消火し始める。

クロエは部屋を飛び出すが、
熱気と、煙で頭がくらくらした。

『このままじゃ間に合わない!

ー水霧ー』

水龍と共に水霧を使う。

水霧とは、
あらゆる場所、屋内でも雲を作り雨を降らす魔法だ。

魔力を抑制していた宝石のネックレスを外したことにより、クロエはあらゆる属性を使える者となった。

「貴女様は……!イザベラ様っ
早くお逃げくださ…
貴女様は魔法が?」

遠くから、クロエを心配して一人のメイドが駆けてくる。

『はい。ですから、私の事は大丈夫です。
一刻も早くお逃げください。』

メイドは、躊躇うような素振りをしたが諦めて避難していった。


クロエが通路を見回すと近くの扉に多くの使用人達や騎士がいる。

『どうされたのですか!
早くお逃げくださいっ。』

「!貴女様は…。この部屋に国王陛下と姫君が!扉には厳重な結界が…。
騎士長達は隣国に居られて…。」

クロエが結界に手を伸ばす。

「無理です!我らでも無理だったのですよ!?」



『ールヴナー』

結界を解く魔法を使う。

騎士達でも無理だった扉を、
一瞬にして開いてしまった。

使用人や騎士、女官はあんぐりと口を開けたが、次には部屋をのぞき込む。

「国王陛下!!」

「姫君っ!?」

女官の悲鳴のような声が聞こえた。

広い部屋に埋めく炎の中心で、
アレンがチユを大切そうに抱いている。

『アレン様っ!何をしているのですっ。貴方は魔法を使えるのではないのですか!?』

女官や、騎士達はその様子をじっと見ている。奇妙なほど静かに…。

女官は、口を開いた。

「ひ…姫様が。

……亡く、なられ…ました。」

クロエは気付いていなかったのだ。

アレンに大切そうに抱かれている姫君は、
もう、姫君ではない。

そこにはもう、いないのだ。

『チユ…様』

クロエは燃え盛る炎の中に飛び込んだ、
部屋の中心に居るアレンの前に立って叫ぶ。

『水霧』

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