太陽と月の後継者
3節 兆候
背中の火傷が完全に治るまで、
クロエは学校に休むと伝えている。
実際治っていたが、そんなに早く治っていると皆に気味悪がれて疑われるのを恐れたためだ。
その間約3週間、クロエは任務に没頭する事となった。
『アリス、おはよう。』
先日、例の貴族での任務が終わった。
アリスはソファーで暇そうに寛いでいた。
「おはよう、ねークレア
人を殺す時の感覚ってどんな感じだと思う?」
いきなり何を言い出すのだとクロエは怪訝そうな顔をする。
『…そんなの分からないよ。』
「アリスはね、昔アリスの家族を殺して王座についたものを皆殺しにしたわ。
復讐したの。
ひとりひとり、
人形にして、苦痛を味合わせた。
苦しくても、痛くても、
何も言えないようにしてやったわ。
アリスみたいにね。」
アリスは、クスクスと可憐に笑う。
クロエは、背筋が凍るような感覚に陥った。
「アリスは人じゃないの。
昔、奴らに殺されて、人形にされたわ。
悪趣味ね、その人形にアリスの心臓を入れられた。
それから、アリスは生きた人形。
“生ける死者”
何も感じないの。
あるのは、復讐する喜びだけなの。」
アリスは、「でもね」と言葉を続ける。
「時々、アリスのような人を見ると寂しいと思うの。」
クロエはアリスの片目から宝石のような涙が出ているのに気づく。
「不思議ね。
心なんてない筈なのに。」
アリスは笑った。
『あるよ、アリスにも心がある。
じゃなきゃ…』
「クレアは優しいのね。
じゃあアリスの仲間になってくれる?」
アリスは狂ったようにこちらに近付いてきた。
『アリス、アリスは仲間だよ。』
「違うわ。」
アリスは、一気に間合いを詰めるとクロエの耳元で言う。
「アリスに心を頂戴。」
クロエはふっと意識を手放す狭間で、アリスの悲しそうな瞳を見逃さなかった。