りんごのほっぺ
「僕は曽根 史(そね ちかし)。皆からはチッカって呼ばれてて、麟ちゃんと同じクラスの3年G組だよ。宜しくね林檎ちゃん」
「…っ、よろ、しくお願いします、」
宜しくやるつもりなんて全然無かったのに、流れで握手まで交わしてしまった。
ブンブンと繋いだ手を揺すられる。あ、チッカさんの手冷たい。
「じゃあ林檎ちゃん、案内してくれてご苦労だった」
那智さんはヒラヒラと手を振りながらG組の教室の方へ歩いて行く。
「ばいばーい!林檎ちゃんまったねー!」
チッカさんも那智さんの後に続いていった。大きく手を振っている。
私はそれに手を振り返す事なく、ただ、ただ、唖然と立ち竦み、彼等の背中を静かに見送る事しかできなかった。
嵐が過ぎ去ったかのような不思議な感覚。今まで味わった事のない感覚に心が軽快に躍っていた。
熱を帯びたままの顔に手を当てて、ぼそり。
「りんご、か…」
柔らかに呟いてみる。
その優しくも甘ったるい響きに自然と頬がニヤけるのを感じた。
ほんのひと時の間だったけれど、シュレックから林檎ちゃんに大昇格できた。
那智 麟之助先輩と佐野 史先輩、か。
今後関わる事は無いであろう、その名前を、心の奥底に仕舞い込んだのであった。
《 シュレック、林檎に大昇格する。》
…あ、私の名前、言えてないや。