りんごのほっぺ



いただきます。手を合わせて呟く。

パキリ、割り箸を割って、冷たいうどんをちゅるちゅるすすった。



爽やかな柚子の香りが鼻から抜けて、豊かな青ネギの風味が口一杯に広がる。

うん。美味しい。

サクリ、トロン。半熟卵天ぷらにかぶりつけば中の半熟の黄身が溢れてくる。それをつゆと混ぜて、うどんと絡めて食べるのが最高に美味。



食堂に来ればこの組み合わせを注文するのが定番になっていて、ちゃんとお弁当を作った日でもお弁当を諦めてまでこの定食を食べた事があるくらい大好物。



お腹が空いてた事もあり、あっという間に一人前をぺろりと平らげた。



腹持ちの良いうどんのはずなのにあまり食べた気がしない。

お腹に手を当て相談する。……おにぎり2つくらいは余裕で食べられそう。

がま口の財布をポケットに入れたのを確認してからカウターに向かった。



今まで気付かなかったけれど、どうやらカウターには人だかり?のようなものが出来ていて賑やかだった。

何事だろう?と人混みを上手に交わして、空いた隙間から顔を出してみる、───と。



「おばちゃん頼むよおおおお!なあ?俺とおばちゃんの仲だろお!?」



人だかりの中心にいた人物。注目を浴びてる人物。

その人物を視界に入れた瞬間、 心臓がギュンと音を立てて息を詰まらせた。


しゃがれた声。派手な金色。無駄な装飾品。着崩された制服。整った顔。大きな身体。…──ほのかなビターオレンジの香り。


そこには、那智さん。那智 麟之助がいたのだった。
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