りんごのほっぺ
まさか昨日の今日で那智さんに遭遇できると思っていなかったから驚いた。
むしろもう会えないかもしれないって思っていた程だったから尚更その衝撃は大きくて。頭を金槌で殴られた気分だ。
これは、もしや、那智さんの呪いにでもかかったのだろうか?それとも気付かないだけで那智さんとはもっと前から会っていたのだろうか。
いずれにせよ那智さんがこんなに目立つ人間なんて知らなかった。
那智さんは食堂のおばさんと揉めていた。
どうやら話を聞く限り、注文したいメニューと自分の持ち合わせのお金が少しばかり足りないらしい。
それをまけてくれなどなんだのと駄々をこねていた。
無謀すぎるよ那智さん。そんなの近所の八百屋さんじゃないんだから無理に決まってるじゃん。阿保だ。馬鹿だ。ヤンキーだ。
周りの野次馬であろう生徒達はこの異様な光景を面白がって見物しているだけで、誰一人として那智さんにお金を貸す事おろか止めに入る事もしな…できなかった。
でも那智さんはいつまでたっても食い下がらないし、おばさんも値下げなんて断固として拒否してるし、ていうか那智さんのせいで注文が滞って大行列が出来ていた。
おい、那智さん。何をしてるんだ。皆困ってるじゃないか。早く引き下がりなさいよ!
なんていっちょ前に心の中では言いたい放題なんだけれど、口には出せず、行動にも移せず、私もただの傍観者にしか過ぎなくて。皆と一緒だった。
このまま見ているのもどうかと思ったので、見なかった事にしようと、くるり、方向転換。人混みをかき分ける。
────・・・•ぎゅるるるる!なんて。タイミング良く派手に鳴ったお腹の音。それは空腹を知らせる合図。
立ち止まって考える。未だにぎゃあぎゃあと揉めている那智さんを視界に入れてまた考える。………ぐぬぬぬぬぬ。お腹、空いた。