りんごのほっぺ
「だってもう財布の中に一銭も入ってねえんだもん!100円くらいまけてくれたっていいじゃねえか」
「そんなこと言われたってこっちは商売だ決まりがあるんだよ。ほら金がないなら帰った帰った」
「俺腹ペコなんだってえええええおばちゃん頼むよおおおおお」
「誰かに借りてきな。後ろが混んでるんだ早くどいとくれ」
「そこをなんとか!お願いだよおばちゃぁ、」
「──・・・•っす、すいません!これを、」
身体が勝手に動いていた。無我夢中だった。もうどうにでもなれって感じだった。
……や、やっちゃった!
顔をがま口の財布で全力で隠しながら、できるだけ身を引いて、カウターに百円玉を差し出したのだ。
今ここにいる生徒全員があいつ勇気あるなって。勇者だなって。思った事だろう。
そんな勇気ある行動を取ったのは、そう、他の誰でもない、この私。注目される事を大の苦手とする赤面症の黄緑 緑だった。
私に集まるたくさんの視線が矢の如く身体に突き刺さる。案の定、顔がしゅわしゅわ赤く染まった。
突然百円玉を渡されたおばさんは少し驚いてたみたいだったけれど、あいよ。まいどあり〜。と気怠くお金を受け取って厨房の中に入って行った。
自分でも驚くくらいのヒーロー紛いな行動に心臓が荒々しく音を立てていた。
あの気まずい空気の中でよく百円玉を差し出したもんだ。
チラリ、恐る恐る那智さんを覗いてみれば。キラキラとした目で私を見ていて。
「…り、りんご様!」
林檎”ちゃん”から林檎”様”へと大出世したのであった。