りんごのほっぺ
苦し紛れに出した本音のお願いが断られたとなると、本当の本当に那智さんにお願いする事が無くなった。
そんなに欲の無い人間だったっけ?とちょっと自分が心配になったけれど、よくよく考えみれば”那智さんに”お願いする事が無いだけだった。
そりゃ本物のランプの魔人に3つも願いを叶えてもらえるのであれば本気で考えるし、それなりのお願いもちゃんとある。
例えばシュレックの称号を廃止してもらう、とか、赤面症を直して欲しい、とか、黄緑 緑って名前を改名したい、とか。うん。そりゃあもう色々ある。
「林檎ちゃんは何か困ってる事はないのか?」
困ってる、事。
そんなの上げたらキリが無いくらいにたくさんある。今の状況もまさにそうだし、なんてたって赤面症には物心ついた時からずっと苦しめられてきた。
私は困ってる事だらけだ。
「…な、無いです」
でも那智さんには嘘をつく。言った所で意味が無い。那智さんがどうこうできるような問題じゃないのだ。
「ふうん。へー」
嘘を見透かすような白い目で、ジロジロ、ジロジロ、私を見てきた。
その視線に耐え切れなくなった私は徐々に顔を赤く染めていく。あ、あんまり見ないで…!意識しちゃう!
「あああああああ!それだよそれ!俺ってばすごい良い事思いついっちゃったわ!」
突然。私の顔をまじまじと観察していた那智さんが叫んだ。
うわ!でたよ!そのワード!那智さんの”良い”は全然”良い”じゃ無い。さっきの昼休みの一件で思い知った。
身体に悪寒が走る。ひんやり背筋が冷たくなった。